お茶の水女子大学教育社会学研究室
Sociology of Education

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耳塚寛明 書評集 (採集文献一覧へ戻る)
ヒルサム・S、ケーン・B・S/著 牧昌見/監訳 『教師の一日』 ぎょうせい/刊

 教師受難の時代といっていいほど、さまざまな人々が教師批判を展開する。サラリーマン教師、 不適格教師等、教師批判は枚挙にいとまがない。教員養成、採用、研修の在り方が問われている のも、その背景には教師の能力や人格に対する不信、日々の役割遂行に対する不満が存在する ものと見てよい。
 だが、ここで疑問に思う。教師のしている仕事に対する批判は数多いものの、果たして人々は、 教師の仕事の実像についてどれだけのことを知っているだろうか。教師は、学校の中や外で、ど んな仕事にどれだけの時間をかけているのか。あるいは何をしていないのか。他の職業と比べて どうだろうか。教師の仕事の質と量、さらに教師の生活自体について、存外知識が不足しているよ うに思う。
 本書は、イギリスの国立教育研究所による教師の活動・生活分析の翻訳である。イギリスの66 の小学校教師129名について、188日間にわたり、学校内外における生活が、詳細に観察・報告 されている。教師の一日の勤務時間は平均して約8時間30分、その内授業は4時間48分。家で はおよそ1時間ほどを採点にあて、また翌日の指導案づくりに1時間以上かける。こうした大雑把 な時間配分調査の他、授業時間におけるより詳細な仕事の分類(事務的仕事や生活指導等)、 教師や学校による差異、実習生受け入れの影響等が、分析されている。
 日本の教師はどうか。わが国でもこの種の調査はないわけではないが(文部省「教職員勤務の 態様」昭和33年等)、それらは時代的に古く、しかも教師の仕事の質的側面を十分把握していな い。「忙しい」あるいは「多忙」を連発する教師はきわめて多いが、今の日本でこのような調査を行 なったら、教師のどんな生活像が浮かび上がってくるだろうか。教師はどの程度、また、なぜ多忙 なのか。
 教師や学校のどこをどのように改革すべきか。繰り返されるこの問いに答えるためには、まずも って本書に示された類の基礎的データが必要に思う。


以上

1996年12月5日
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