お茶の水女子大学教育社会学研究室
Sociology of Education

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耳塚寛明 書評集 (採集文献一覧へ戻る)
浜野保樹『ハイパーメディアと教育革命』株式会社アスキー

 これまで著者は、コンピュータと教育について書くとき、直接的な言葉で語ることを避けてきたと いう。現場教師が一部の人々の扇動にふりまわされ、また彼らがいかに努力を傾注しているかを 知ると、批判めいたことを書くのがはばかられたためである。だが、本書は違う。あとがきにこうあ る。「要するに、学校教育におけるCAIの息の根を絶とうとしている。いったんCAIを白紙に戻し、 人間と学習の問題にたちかえって考え直す必要がある。」
 『2001年宇宙の旅』の映画監督キューブリックの作品に『時計じかけのオレンジ』がある。この 映画の中で、殺人を犯して囚人となった非行少年アレックスは、「ルドヴィコ療法」の最初の被験 者として選ばれる。ルドヴィコ療法とは、スキナーによる学習理論の中核をなすオペラント条件付 けによって、悪人を善人に改造しようとするものである。アレックスは、血管に注射され、拘束衣を 着せられ、目を背けないように顔を固定され、クリップで瞼を押し開けられて、ナチスの残虐な映 画を無理矢理見せられる。その結果彼は、あたかも餌に条件づけられて「おすわり」を覚えた犬の ように、暴力や性行為に対して猛烈な吐き気を催すようなる。
 著者はここにCAIの本質をみる。それは、学習者の自発的な動機付けとはまったく無関係に、 自分が学ぶべき文脈から切り離され、うむをいわさずに教えようとする。心を持った存在としての 人間に対する洞察を欠いたCAIは、ルドヴィコ療法に通じる。アレックスはたしかに行動面では暴 力や性的行動に拒否反応を示すようになったが、彼の魂は暗黒のまま、むしろ暴力性や性的欲 望は増幅された。
 では、CAIに代わる何が必要か。それはティーチング・マシンではなく、ラーニング・マシン(人 間が学ぶことができる機械)であり、文字、音声、動画、映像などすべてのメディアを統合的に扱う ことのできる「ハイパー・メディア」だという。尋常ならざる映画通でもある著者の文章は、エピソード に富み楽しく読める。ただ誤植が多く残念である。

以上

1996年12月5日
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