お茶の水女子大学教育社会学研究室
Sociology of Education

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市川昭午編『大学校の研究』玉川大学出版部

 防衛大学校、防衛医科大学校、水産大学校・・・。これらは高校生の進路でもあるので、名前位 は聞いたことのある読者が大半だろう。しかし「大学校」と名の付く教育機関が、行財政上はどう位 置付けられており、さらに「大学」とどう異なるのかについて正確に答えられる読者は稀に違いな い。
 この本は、冒頭にあげた大学校など、いわゆる「省庁所管学校」と「部局所管学校」を対象に、 その設置形態や教育内容、キャリア形成に果たす役割などについて、包括的に調査した結果で ある。
 本書でいうところの省庁(部局)所管学校とは、文部省以外の中央政府の各省庁(地方公共団 体の各部局)が所管する教育訓練施設のことである。わが国には現在、「大学校」と称する機関だ けでも70校以上、その他、学校、学院、学園、研修所、訓練校などと称するものを含めると膨大な 数に及ぶ。
 省庁所管学校は、いわゆる文部省の1条校と異なり、まことに大きな多様性をもっている。たとえ ば、教育レベルは中等教育レベルから大学院レベルまで広がり、設置目的も公務員の幹部人材 養成(防衛大学校、海上保安大学校など)、専門人材養成(税務大学校、国立公衆衛生院)、民 間専門人材の養成(農業者大学校、水産大学校)、民間特殊人材の養成(航空大学校、海員学 校)から、公務員や民間人の短期研修を目的としたものまで多彩である。
 本書がこうした大学校等を研究対象に据えたのは、教育研究がもっぱらこれまで教育行政(文 部省)の所管する学校を扱い、他の行政分野の学校を軽視してきたためである。しかし省庁(部 局)所管学校が今日生涯学習機会として果たしている機能を考えるとき、全体的な教育システム のなかにこれらの学校を位置付けておく必要がある。
 省庁所管学校の中には、1条校とほとんど変わらない教育内容を提供しているものや、卒業生 に対して大学卒業資格や、きわめて評価の高い修了証書を発行している機関もある。こう考えると 正規の学校以外の学校を見ることによって、かえって「学校」とは何か、大学とはどんな特徴をもっ た教育研究機関であるのかなどが見えてくる。
 大学校は概してカリキュラムが過大であり、全寮制のもとでかなりきつい「詰込み」教育を行って いる。これが大学校に対する批判を招いているのだが、逆に考えるとそれだけ効率的で目的のは っきりした教育を行っているともいえる。目的とする職業世界での実務に長けた経験者が、多く教 官を務めている点も特徴である。本書の終章に指摘されているように、大学校から学ぶべき点は 多々ある。
 進路指導を担当する教員とっても、大学校の設置目的や教育内容、費用、キャリアとの関連な どを知る上で、貴重な本である。

以上

1996年12月5日
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