お茶の水女子大学教育社会学研究室
Sociology of Education

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耳塚寛明 書評集
加野芳正/著 『アカデミック・ウーマン――女性学者の社会学』 東信堂

 ソフトな書名からは想像し難いが、本書は女性学者に関する、地道な実証的研究である。学者 の世界は、企業や他の領域と同様に、あるいはそれ以上に、地位や報酬が学問上の業績に基づ いて決められる「業績主義社会」たることを期待されている。はたして、学者社会において、「性」 による差別は存在するのだろうか。
 1985年現在、全国の四年制大学の教授、助教授、講師の合計は7万8千人を数える。だがそ の内、女性は4985人、全体の6.4%を占めるに過ぎない。女性学者は男性と比べて、(1)いわゆ る銘柄大学ほど、また(2)講師、助教授、教授と地位が高くなるほど、少なく、(3)学士院賞など名誉 的地位の獲得者も少ないという特徴を持つ。
 問題は、こうした女性学者の地位の低さが、彼女等の学問業績の水準に由来するのか否かで ある。この点に関する著者の検討は詳細をきわめる。全国研究者の、膨大な量に及ぶ研究業績 の量的・質的評価によって、女性学者の学問業績点は男性のおよそ2分の1であることを明らかに している。では、女性はそもそも学問的能力において男性より劣って生まれてくるのだろうか。著 者は、結婚・出産などのライフサイクル、大学院での社会化過程などの影響を検討し、女性の学 問的業績の低さが、その生得的能力に由来するのではなく、社会的に形成されるものであること を立証しようとしている。
 大学でのポストの獲得や昇進が、業績主義的だという命題は、(男性の場合ですら)正真正銘 の神話に過ぎない。とすれば女性学者は二重の意味において非業績主義的世界に生きているこ とになる。著者の問題提起は、決して大学にだけ当てはまるわけではない。高校での女子生徒の 学力や進路の形成過程にも同様のバイアスが存在する。能力は社会的に作られるのである。

以上

1996年12月5日


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