お茶の水女子大学教育社会学研究室
Sociology of Education

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耳塚寛明 書評集
長尾彰夫・池田寛『学校文化――深層へのパースペクティブ――』 東信堂

 教育に関する社会科学的研究の最前線で近年もっとも頻繁に使われているキーワードは、「再 生産」である。先進産業社会では、富や権力などの社会的資源が人々に不平等に配分されてい る。それは相対的に平等だとされるわが国でも例外ではない。
 誰がそうした社会的資源を多く獲得して高い階級(階層)に到達するのか。平等な機会が与え られ、本人の努力と能力次第で高い地位につくことが可能だと信じられながらも、生まれ(親の階 級)によって子どもに有利、不利が生じている。そしてこの不平等や社会階級の再生産過程でき わめて重要な役割を果たしているのが、学校教育である。この本は、社会的不平等の生成や階 級の再生産の過程を、「学校における文化伝達のメカニズム」に着目して明らかにしようとするもの である。執筆者は主として大阪の若手教育研究者からなる。
 今日ほど学校教育への不信感や批判が声高にさけばれている時代はない。しかし本書はそう した学校批判を念頭に置きながらも、直接的にそれに解答を与えようとするのではなく、「学校と いう制度が矛盾をはらみながら存続している現実に焦点をあてる」作業を行っている。それはたし かに一見迂遠な方法であって、即効性の高い対症療法を探る上では不利だが、他方、問題の本 質を浮かび上がらせて、真に役立つ原因療法的解決策を発見する可能性をもつ。
 各章で取り上げられている問題は、階層的不平等、部落差別、女性差別といった社会的不平 等の生成過程における学校、学校文化の役割である。60年代までは、学校はさまざまな社会的 不平等を縮小し、平等な社会を実現する旗手だと期待されてきた。だが現実には学校教育の普 及と機会の均等化は、予期された平等社会を実現しなかった。そこから不平等の生成、再生産装 置として学校をみなすアプローチが現れる。本書にはこの観点が貫かれている。
 各章で欧米での最新の研究成果が紹介され、さらにそれらが日本に適用されている。この意味 で単なる欧米での最新の理論動向の紹介に終わってはいない。理論を深めながら、かつ今後より 実践的な課題を設定して研究を進めるとあとがきに書かれている。次著に期待したい。

以上

1996年12月5日


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