お茶の水女子大学教育社会学研究室
Sociology of Education

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耳塚寛明 書評集
竹内洋/著 『選抜社会ー試験・昇進をめぐる〈加熱〉と〈冷却〉』 メディア・ファクトリー

 人々をエリートの地位に選抜・リクルートする仕事は、いかなる社会であっても避けることはでき ない。現代社会は、教育の世界での入学試験や職業世界での昇進試験に代表されるように、人 材の選抜システムの合理化が進んだ、成熟した「選抜社会」である。多くの人々が学校や企業の 中で選抜の対象者になり、どんな人も選抜から逃れられない。学校教育もまた、青少年の選抜を 担う巨大で精緻な社会的選抜装置として機能している。
 こうした、多くの人々をしかも日常的にまきこんだ「選抜社会」は、困難な課題に直面する。それ は、いかにしてすぐれたエリートを選抜するかと同時に、選ばれなかった人々の不満や劣等感を どのようにして解消するかという課題である。彼らの自尊心や面目の失墜を最小限にして失敗に 適応できるようにすることを、社会学の言葉で「冷却(cooling out )」という。冷却がうまくなされな い社会では、人々の不満や怨みがうず巻き、社会の存続や維持が困難となる。それが全体社会 であれ学校や企業のような組織であれ、選抜のあるところ「冷却」過程は不可欠に存在する。本書 で展開されるのは、こうした、人々を失敗に適応させる過程、「冷却」過程の社会学である。
 著者の分析は、入試選抜、中学・高校教育、就職面接、企業内昇進といったさまざまな選抜機 会をカバーし、さらに冷却のためのイデオロギーの歴史分析にまでおよぶ。社会学的な概念を駆 使し、高度な学術論文の内容を持ちながらも、本書はかなり読みやすい。著者の繰り出す「変化 球」は、エリートに色どられた社会の表側ではなく、失敗者の適応過程に的を絞る。表だけ見てい たコインをくるりと裏返してみせたようなおもしろさがある。同時に、失敗者を冷却し、とりなす、巧 妙なメカニズムを社会が備えてきたことに一種の恐れを感じさせる。
 著者は、教育社会学専攻の京大助教授、他に『日本人の出世観』『競争の社会学』等の著書が ある。

以上

1996年12月5日


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