お茶の水女子大学教育社会学研究室
Sociology of Education

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耳塚寛明 書評集
D・W・スチュワート/H・A・スピル著、喜多村和之他訳『学歴産業 学位の信用をいかに守るか』玉川大学出版部

 原題はDiploma Mills、「学位、学歴濫発産業」である。「ふさわしい学問的基盤もなく、高等教 育レベルでの十分な学力を要求することもなしに、学位を売ったり、授けたりする人、組織」を指 す。著者はアメリカ高等教育の代表的団体の2人の研究者である。
 アメリカでは60年代始め、何千件ものニセ学位が総計何百万ドルもの値段で、いかさま師たち によって売られていたという。そして今日、学位の値段ははねあがったが事情は少しも変わりな い。85年の連邦議会の調査によれば、全雇用人口のおよそ3人に1人が本物か疑わしい学歴に 基づいて雇用されている可能性がある。この本は、カレッジやユニバーシティと称してはいても(多 くは私書箱以上のものを持たない)本来の意味ではおよそ大学とはいえない組織の正体を、人々 が見分ける一助とするために書かれている。一種の消費者保護の立場である。
 本書をわが国でどう読むか。第一に学位濫発産業など、高度な資格社会アメリカに固有の問題 だという見方は単純に過ぎる。訳者が指摘するように、それは資格主義、学歴主義が優勢な産業 社会一般に共通した問題であって、わが国も例外ではない。ただ現時点に限るなら、本書が気づ かせてくれるのは「非・資格社会」「非・学歴社会」としての日本社会の実像である。第二の読み方 は比較高等教育論としてのそれである。本書は学歴濫発産業、学位詐欺といったアメリカ高等教 育の影の部分に焦点をあてながら、大学の質的評価システムの実態と重要性を教えてくれる。日 本でも大学の質的評価の必要性が繰り返し指摘されながら、大学人自身の関心は驚嘆すべきほ ど小さく、またそれを実現させる実際的圧力はごく小さい。なぜだろう。
 本書を読んでいて気づくのは、アメリカ社会を貫く基本的前提であり、かつわが国における学歴 社会論議の奇妙さである。この本の敵は学位濫発産業そのものであって、それを成長させ隆盛さ せた高度資格社会や学歴主義自体を糾弾しようというのではない。学位濫発産業が社会問題化 すらしていない、相対的に非・学歴社会であるわが国で、学歴主義が疑いもなく悪者扱いされて いるのは、なぜだろうか。

以上

1996年12月5日


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