お茶の水女子大学教育社会学研究室
Sociology of Education

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耳塚寛明 書評集
馬越徹/編 『現代アジアの教育 その伝統と革新』 東信堂

 本書は比較教育学専攻の若い研究者たちによるアジア諸国の教育に関する概説書である。概 説書ではあるが、少なくとも二つの特色を持った野心的な書物に仕上がっている。
 第一の特色は書名に明らかなとおり、欧米ではなくアジアの教育を対象とした点である。編者 によれば、かつての「貧しいアジア」からNIESに代表される「豊かなアジア」へと変貌する中で、そ の教育も大きく変わりつつある。文盲撲滅が文教政策の主要課題であった時代は過去のものとな り、初中等教育のめざましい充実と高等教育の急激な拡張を経験しつつある。ただしその陰で、 停滞と国内の大きな地域間格差も存在する。いずれにせよ、国際化論議は欧米に偏り、私たちは アジアの実像を見ようとしてこなかったのが実情であって、そのアジアを本格的に観察した本書の 意義は大きい。第二部は、中国、韓国、インドネシア、タイ、フィリピン、マレーシア、インドの国別 概説だが、その多くが最近のダイナミックな社会と教育の変動を描いていて興味深い。
 第二の特色は「アジア教育総論−比較的考察」(第一部)の存在である。奇異なことだが従来 の「比較教育学」の多くは、国や社会を相互に「比較」することなく各国の状況を羅列的に紹介す るにとどまっていた。本書はそれを越えて、アジア諸国の横断的な「比較」を意図している。残念な がら実際のところ、この意図は理解できるものの、視点の提示と単純な比較的記述にとどまり、や や分析に深みを欠く部分があることは否めない。だが、本書は従来の比較教育学への挑戦であ り、その作業の蓄積は教育と社会の変動に関する私たちの理解を疑いなく深めてくれるだろうと 思う。
 なお、第三部として「現代アジア教育研究の手引き」が付されている。外国語文献だけでなく日 本語文献が(それも最新のもの)優先的に紹介されており、門外漢にとってうれしい配慮である。

以上

1996年12月5日


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