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グロ文5周年記念講演会を開催しました

2011年1月31日更新

グロ文5周年記念講演会 西水美恵子さん(元世界銀行副総裁)
「私たちの国づくり―雷龍の国ブータンに学ぶ」(1/31)

  西水①西水③西水②

学生の感想
佐藤香寿実(グローバル文化学環3年生)


 優しい声で関西の言葉を話し、意志の強さを感じさせるような、それでいてどことなく気品が漂う――西水美恵子さんはそんな印象を与える女性だ。絶え間ない学生からの質問に一つ一つ丁寧に答えてくださるその姿に多くの参加者が触発されたことだろう。
西水さんは世界銀行の副総裁として組織改革に取り組んだ経験を持つ、ものすごい人物である。その西水さんは「ブタキチ」と言われるほどの大のブータン好きだそうだ。ブータンは「国民総幸福量」という概念を打ち出したことで有名だが、ブータン第4代国王は、「いつの世も不幸な民が国をダメにする」と考える。"upside down"を信念とし本腰で民主改革に取り組む国王の姿に、西水さんは真のリーダーシップ性を見出している。西水さん自身も世銀時代に、部下とその家族の幸せのことまで考えることの重要性を実感したことがあるという。幸福はマネジメントにとって重要な考え方だとおっしゃるのを聞き、プライベートでの幸せと仕事が直結しているのは当たり前のことであり、人々の幸福が国家運営と直結しているのも当たり前のことであると心底納得した。
日本とブータンでは制度や人口規模に大きな違いがあり安易に比較すべきではないかもしれないが、ブータンの国づくりの姿勢から日本の私たちが学ぶべきところは多い。日本や他の先進国では経済成長を主要目的の一つとして捉えるが、それは人々が幸せになるための一手段であって目的ではない。私たちはいささか数字や物質にとらわれすぎてはいないか。政治の中心に幸福を置くブータンの姿勢にはっとさせられた講演会だった。

羽鳥百合子(グローバル文化学環3年生)

   「あなたはこの国(日本)に生まれて本当に良かったと思いますか」という西水先生の第一声に私は驚いた。先生はブータンが最も学ぶことの多い国である理由に関して、自身がブータンと出会う前の体験を話してくださった。それは、ただ生きるために毎日同じことを繰り返すだけで、希望も持てず心身の健康も維持できず、子どもに教育を与えることもままならない状態のカシミール北村の侘しいアマ(ホストマザー)の話だった。貧困は人間(ないしは悪いガバナンス)が創造した人造現象である、という先生の言葉は、私の心に強く刻み込まれている。
 ブータンには自分がブータンに生まれて良かったと考える人が多いという。それはGNH、すなわち国民総幸福量という指標に代表される雷龍王4世の国創りに懸ける想いに対しての、国民一人ひとりの答えなのである。信念を貫く情熱的な覚悟、これこそが国を創る上で雷龍王4世が大切にしていたものに他ならない。そして西水先生はこの覚悟、一人ひとりの責任、生き方こそが、人間誰しも持ち合わせているリーダーシップを開花させる要因なのだという。
 学問を通じて体得する知だけでなく、人としてどう生きるか、という芯の部分を確立しそれを貫くこと。周囲の変化を期待するだけでなく、自らが主体的にアクションを起こすこと。今回の講演を通じて、私はこの二つを大切にしていきたいと感じた。

海老原麻美(グローバル文化学環3年生)

今回、西水先生の講演の中で特に印象に残っている点は、ブータンにおける国民幸福度と国づくりという二点です。まず、ブータンの国民幸福度については、ブータン国民の97%が自分は幸せだと感じているということに純粋に驚きました。ブータンは小国で人口の少ない国ですが、一般的に「豊か」といわれているような国ではありません。それにもかかわらず、97%という水準は非常に高いと思います。このことから、幸福というのは生活水準の高さや物質的な豊かさだけでは語れないものであるということを改めて感じました。「経済成長は手段であって、目的は国民の幸福に尽きる」という西水先生のお言葉は、「豊かさ」を経済成長のみに見出す考え方を見直させるものでした。もう一点の国づくりについてでは、ブータン国王の例を通じて、口先だけではなく本腰を入れて本気で政治を行うリーダーの存在は一国をも動かす力にもなりえるということを教えていただきました。そして情熱、寛容さ、信念、人徳を持ったリーダーの存在もさることながら、国のリーダーを選ぶ国民もまた、国づくりの一端を担っているということを改めて意識しました。国づくりを他人事のように捉えるのではなく、国民が国のリーダーを選んでいるのだという高い意識を持つことが大切だと思いました。「この国に生まれて幸せか」という問いに心から"yes"と言えるためには、国民も受け身でいるだけではいけないと感じました。

新井杏子(グローバル文化学環3年生)

西水先生のご講演から、私が感じたのは、「リーダーシップ」という言葉です。貧困は人為的なものであり、ガバナンスをつかさどるリーダーが民意を反映し、本気で取り組めば最低限度まで減らすことができる。今まであまり馴染みのなかったブータンという国の事例から、経済成長のみをゴールとしない政治について、日本を振り返って考える機会をいただきました。日本の宝が先見の明ある民間企業のリーダーであるというご指摘にあったように、リーダーシップが強調される中で、私自身が「リーダー」という言葉に対して、人の上に立って社会を動かしていく一握りの人々を指す言葉だと思っていたことに気づかされました。国づくりというゴールを考えたとき、政府や国連、援助機関といったアクターのダイナミックな影響力にばかり目を向けると、逆にその目指すものは捉えどころのないものに思えてしまいます。国づくりは誰のものなのか、という問いに対して、「人間誰もが持って生まれたリーダーシップ精神」という言葉から、国づくりは、ひいてはそこに暮らす人々に直結するものであるからこそ、自覚的個々人によって成されるのだという一つの答えをいただいたように思います。個人の集積としての民意が国をどう変えていくのか、自分のこととして捉え、考えていきたいと思います。

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