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お茶の水女子大学
コア・クラスター 「ジェンダー系」
2002年度後期

宗教文化論
Gender, Region, Regional Culture


授業報告書
(2003年3月刊)
抜粋


まえがき


 お茶の水女子大学では、2002年度より、全学の学生が特定の課題について複数の講義を履修するコース<コア・クラスター>を新設し、初年度はジェンダーと総合環境学の2つのコースがスタートした。本講義はジェンダー系のひとつの科目<宗教文化論>の授業報告書である。
 ジェンダー系では、つぎの11科目が2年間にわたって開講され、学生はこのうち5科目以上を履修することが義務づけれている。
ジェンダー学論(必修)、グローバル化論、企業・起業論、宗教文化論、公共圏・政策論、マネー・ワーク論、知の生成論、メディア・表象論、ジェンダー・トラック論、身体・心理・テクノロジー論、ラヴ・マリッジ論
 ジェンダー系コースの企画者である竹村和子先生は、イスラム世界におけるジェンダー問題をとりあげる必要があることを強調し、私が<宗教文化論>なる講義を担当することになった。最初から言い訳が、私自身は比較歴史学のコースに所属し、中近世のアラブ地域の都市社会史を専門としており、女性史もジェンダー研究もどちらも専門的に研究をしているわけではない。しかも、歴史の、とくに前近代の歴史史料で女性についての情報はきわめて限られている。しかし、歴史研究が、<社会全体の歴史>をめざすのであれば、半数を占める女性の存在を意識しないで研究をすることはできない。また、近年は、法廷文書を用いた家族やジェンダーの研究が輩出しており、中東研究の分野で、女性やジェンダーに関わる研究機関や研究団体も設立されている。企画者の熱意に圧され、引き受けることになった。
初回の講義には70名近くが集まり、教室は立ち見まで出現した。コア・クラスターのコースは、授業効果を高めるために学生数を40名程度に制限することを認めているが、「来る者は拒まず」が私の授業方針なので、初回講義の感想をレポートとして提出することを要件としたが、受講制限は行わなかった。
 授業の方法は、講義形式を基本とし、人数が多いため、毎回B4判で2〜3枚のレジュメと資料を配布した。出席者は60名前後いたため、その印刷は楽ではなかった。しかし、一方的に教員が講義をするだけではなく、さまざまな学部・コースに所属する学生の意見交換が図れるように、いくつかの試みを行った。まず、講義中に意見や質問を求めても自発的な発言する者がほとんどなかったので、5回目に「ムスリム女性の位置についての評価」と題するレポートを課し、これを私が論点整理して議論の形をとった。第二には、ムスリム女性の素顔を伝える意味で、本学大学院でイスラム世界のジェンダー研究を専攻している嶺崎寛子さんに特別講義をお願いした。カイロでの現地滞在のときに収集した写真やヴェールなどを持参して、実演まじりの講義できわめてフレンドリーな雰囲気で行われたという(私の出張中に設定し、あえて女性だけの語らいの場とした)。第三は、2月3日のアラブ諸国女性訪問団との意見交換会である。年末に外務省中東2課の方から、1月下旬にアラブ諸国の社会で活躍する女性6名を招聘する予定で、お茶大を訪問したいという申し入れがあり、日本の人々がムスリム女性やイスラムをどのように理解しているかも知りたいというので、学生と直接話す意見交換会を提案した。学内にも広く掲示をだし、受講生に限らず、計100名近くの参加者があり、アラブ女性がお茶大でアラビア語で話すという記念すべき日となった。
 学期末のレポートは、ムスリム女性の生涯や生活について情報を集め、規範と実態の関係を議論することを課題とした。受講者の間での討論を促す意味で、数名のグループをつくり、グループ・レポートの形式をとった。このレポートは、作成の過程から大使館に聞き取りに行く者などえらく熱が入り、3月10日の締め切りには、分厚いレポート21点がそろった。実は、本報告書の作成を思いたったのは、学生のレポートを担当教員だけが読んで返却するだけではもったいない、と考えたことにある。とくに今回のレポートは、集めた情報自体にも価値があり、また、それぞれのグループが、イスラム世界のジェンダー問題をどう考えるか、あるいは、それを通して日本のジェンダー問題をどう考えるか、について、思考?錯誤の過程がよく表れている。これを、教員が私蔵(死蔵)するのではなく、印刷して受講者が共有できる形にすべきだと判断した。レポートをこのような形で公開することについては、講義の最終回および意見交換会の際にアナウンスを行ったが、個々に了承をとることはできなかったので、本書の扱いについては、限定公開であることをご了解いただきたい。
 本書の主たる目的は、学生のレポートを収録することにより、受講生の今後の学習を促進することにあるが、意見交換会の記録(質疑の記録と参加者アンケート)、授業評価アンケートなども収録した。コア・クラスターのジェンダー系講義は、教員・学生の双方にとっての実験であり、本報告書が、今後のジェンダー系講義やコア・クラスターの運営について、参考になる点があればと思う。
 なお、本講義の運営については、嶺崎寛子さん(お茶の水女子大学人間文化研究科博士後期課程比較社会文化学専攻)にティーチング・アシスタントとして、資料の作成や本書の編集などで助けてもらった。また、本書の作成経費は、比較歴史学講座の校費を使用させていただいた。

2003年3月

お茶の水女子大学文教育学部 人文科学科 
比較歴史学コース
三 浦  徹
(連絡先miura-t@pis.bekkoame.ne.jp)

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