比較歴史学コーストップへ
文教育学部トップ

アラブ諸国女性訪問団 意見交換会
  質問と回答の記録

2003年2月3日午後3:30-5:00 於 文教育学部第一会議室

宗教文化論の受講者が事前に下記の質問票を提出し、これを8つの分野--教育、労働、宗教と生活、結婚と離婚、夫婦の生活(出産・育児)、男女の平等性、セクシャリティ、異文化認識--に分け、訪問団の方が個々に回答する形で行った。なお、時間の関係で、すべての質問に回答することはできなかった。Aとあるのが回答で、()内は回答者の国名である。なお、回答はいずれも個人としての見解・意見であり、国や所属機関を代表するものではない。

アラブ諸国女性訪問団との意見交換会 質問票
アラブ・イスラム世界の女性、あるいはその文化・社会について、質問を2つ以上書いてください。なぜ、そのようなことを質問したいのか、その理由・背景が先方に理解できるように、書いてください。

1.教育

Q1-1学校教育制度についてお聞きします。義務教育は何年ですか。男女別学ですか、日本の大学では、共学が一般的ですが、女性教官が非常に少ないです。皆さまの国ではどうですか。男女別の大学・義務教育の就学率も、よろしければ教えてください。
A1-1オマーンの義務教育は12年制で、男女別学です。(オマーン)

Q1-2イスラム世界では男女別学が基本ということですが、男女で学校での教育内容に違いはありますか?もしあるとしたら、具体的にはどういうことが教えられているのでしょうか?
A1-2公立の学校は男女別学ですが、プログラムには違いがありません。公立の学校には国が定めた教育プログラムがあり、それに沿って授業を行っています。しかし教育内容を男女によって区別することはありません。私立学校はこのナショナル・プログラムに拘束されないので、私立の教育内容は公立のものとは違っています。私立には男女共学もあります。(イエメン)

Q1-3日本では職場の部や課の名称を男女で分けることがないので、カタールの教育省教育指導局が男性部・女性部に分かれていることについておききします。2つの部で仕事はどう違うのですか? また、分けることにどんなメリットがあるのですか?
A1-3仕事内容には違いがありません。ただ管轄が異なっていて、男子校の管轄は男性部が、女子高の管轄は女性部が行っています。女性の教育のことは女性部が、男性の教育のことは男性部が決定します。それによって教育のニーズを掘り起こし、それに正しく対処することができるのです。(カタール)

Q1-4大学生や大学生活について教えてください。人気のある学問分野、大学での人間関係、学校内外の活動などについて教えてください。
A1-4女子学生の関心は文学・言語から科学・技術にまで広がっており、特に人気があるという学問分野はありません。(アラブ首長国連邦)

Q1-5バーレーンでは識字率が100%近くになり、女性の社会進出もだいぶ進んでいるようですが、教育が女性に与えた影響には、どういうものがあると感じますか。また、教育は他のアラブ諸国でも進めた方がいいと感じますか?
Q1-6視察で日本の教育現場にいらしたそうですが、日本の教育現場と自国の教育現場の、一番の違いは何でしたか。また、日本では地域・家庭の教育力の低下が問題になっていますが、皆さまの国では、家庭での教育・しつけはどうあるべきだと考えられていますか。

2.労働

Q2-1日本では、男性に人気の職業、女性に人気の職業があり、それぞれ男らしいもの、女らしいものが多いです。アラブ・イスラム世界の女性の職業は限られていると聞きましたが、そのなかでも人気の女性の職業と、男性の間で人気の男性の職業、また、女性にもてる男性の職業、男性にもてる女性の職業があったら教えてください。
A2-1女性に人気の女性の職業は、まず教育関係、教師などです。次に医師など、保健衛生に関連する仕事。その次に人気があるのは社会福祉に関わる仕事です。男性に人気の職業はなんといってもハンダミーヤです。次にビジネスマン、そして医師。科学技術に携わる技術職。男性にもてる女性の職業はなんと言っても教師です。男性は相手の女性が教師だと聞くと非常に嬉しいようです。女性に人気のある男性の職業は、軍隊の将校など、佐官クラスの軍人です。女性の仕事は制限されてきましたが、だんだんと女性のトレーニングプログラムができてきています。(オマーン)

Q2-2どのような女性に憧れますか。具体的に教えてください。
A2-2憧れる、というのとはちょっと違うかもしれませんが、社会開発に参画し、学位を取るなどして積極的に自分のレベルを向上させ、軍事や外交などの政策決定に参加しようという意志をもっている女性になりたいと思います。(クウェート)

Q2-3皆さまの国のNGO活動などについて教えてください。
Q2-4ダラル・アル・ザイードさんにお伺いします。ザイードさんが担当される弁護の依頼人は女性と男性のどちらが多いのですか? また、女性弁護士のニーズは多いですか? どういった事件を扱ってらっしゃるのですか?
A2-4依頼人は男女同数ぐらいです。男性か女性かというよりも、今までの経歴や実績によって仕事は増えたり減ったりします。女性弁護士にたいするニーズについてですが、女性弁護士が活躍している現実を広く知ってもらうのがまず難しいです。しかしニーズはあります。主な仕事としては、家族に関する事件が、女性の依頼人の場合には多いです。(バハレーン)

3. 宗教と生活

Q3-1皆さまが子供だった頃と今とでは、イスラム教はどのように変わりましたか? 時代と共に宗教がどのように変わるかをお聞きしたいです。
A3-1イスラムは不変ですが、宗教は時代や場所に適合できるようにできているのです。礼拝の仕方や断食などは、イスラムのできた時代から今まで同じ形で行われています。ヴェールについていえば、ヴェールを被らなければいけないとイスラムは定めており、それは変わったりはしません。しかし、実際の運用は柔軟に行われています。例えば日本やアメリカのムスリマがヴェールを被るのには、私たちが母国で被るのに比べて社会的な困難があります。そういうときは必ずしも被らなくてよい、というように、運用はフレキシブルに行われていますが、イスラムの原理原則は不変です。(UAE)

Q3-2断食を通じて、どんな気持ちの変化がありますか?私には宗教と生活の密接なつながりを感じる場面がないので、どんな気持ちで断食をするか興味があります。
Q3-3アラブ・イスラム世界で、非ムスリムはどういう生活をしているのでしょうか?ムスリムと非ムスリムとの接触はあるのですか?アラブ・イスラム世界のマイノリティについて教えてください。
A3-3出稼ぎにきている外国人ノンムスリムもクウェート国籍を持っていて、彼らの権利は保障されています。1950年代からキリスト教徒がいて、教会もあります。いわゆる「原理主義」やその主張に対しては、私たちはそれを拒否しています。(クウェート)

Q3-4キリスト教には、「神が創造した」という非科学的な考えがありますが、イスラム教では、現代科学と宗教、とくにコーランの記述が食い違うような場合には、どのように考えますか?
Q3-5皆さまは、無宗教である日本にどのようなイメージを抱きましたか?

4. 結婚と離婚

Q4-1アラブ・イスラム世界の女性は、どういった恋愛をへて結婚に至るのですか。男女の平均初婚年齢はいくつぐらいでしょうか。また、結婚しない(できない)男性や女性はどのくらいいますか。
A4-1まず、お互いを知るところから始まります。男性は女性側にフトバという(結婚の)意思表示をします。その後女性側からの許可があったら、男性は女性を見ることができます。家族の合意は不可欠で、家族に関係なく事を進めることはできません。これは社会やイスラムが要求していることです。初婚年齢は上がる傾向にあり、女性は20才以後です。男性は、今は25-30くらいで結婚するのが一般的です。女性の家族は結婚を女性に強制することはできません。イスラムは女性の同意が必要であると定めており、女性が結婚を強制された場合には女性は裁判で争うことができます。そういった裁判はほぼ100%女性の勝訴になります。自分の意志で最初から結婚しないという女性はいません。(イエメン)

Q4-2日本では、だんだん離婚が多くなってきています。また、昔より離婚が恥であるという考え方がなくなってきました。イスラム世界では離婚は多いのですか?また、離婚は女性にとって恥であるとされるのですか?離婚女性にたいする社会の反応はどのようなものですか?
A4-2離婚は増加傾向にあります。離婚には協議離婚と一方的離婚があります。一方的離婚は男性が女性に離婚を言い渡すことで、タラークと呼ばれます。協議離婚は女性からの離婚希望がある場合に裁判所に行って、裁判官に離婚を宣告してもらう方式の離婚です。離婚した女性には家と、子供がいる場合にはその養育費と一定期間の間の女性の生活費(ナファカ)を保証されます。子供の養育費は給料から政府が天引きして取り立てるので、支払われないことはありません。父親には子供を訪問する権利があります。かつては離婚は大変で、社会にとっても非常に不名誉なこととされましたが、今ではそんなことはなくなっています。家庭崩壊にさえ至らなければ離婚できます。離婚が疎まれたり、恥ずべき事とされるようなことはありません。再婚もできます。白い目で見られることはありません。(バハレーン)

Q4-3結婚の条件として、同程度以上の地位や家柄の男性と結婚するのが望ましいそうですが、実際に結婚相手を決めるときにはどのくらい、地位や家柄が考慮されているのですか?

5. 夫婦の生活(出産・育児)

Q5-1日本では女性の就職は、結婚や出産・育児を抜きには考えられません。出産がのちのちのキャリアに影響をおよぼすので、それが女性の社会進出のネックになっています。そのため、日本では、子供のために仕事をあきらめるか、仕事のために結婚や子供をあきらめるかの二者択一になってしまう場合が多いです。結婚・出産と仕事の両立についてと、実状をお聞かせ下さい。
Q5-2日本では最近、DV(家庭内暴力)についての認識が進み、やっとDVが問題視されるようになってきました。イスラム世界では、夫婦間のDVは社会問題化していないのでしょうか? 各国の実態について教えてください。
A5-2オマーンでは問題にまではなっていません。女性を殴る男性は未熟者と見なされます。夫婦間で問題がある場合には妻がわの親戚などと話し合い、問題を解決します。DVは、夫婦が回りの親戚などのネットワークから孤立し、夫婦間の問題を自分たちだけで解決しようとする文化における問題なのではないでしょうか。妻が気に入らない場合、夫は別の妻を娶ることもできますし、親戚と相談することもできます。殴る必要はありません。また女性は裁判所に行く権利があり、女性を殴った夫は逮捕されます。(オマーン)

Q5-3女性の参政権はあるのですか?また、女性達は参政権についてどのように考えているのでしょうか?
Q5-4日本では、働く妻に対して夫や世間が厳しいという現状があります。みなさまの国ではどうですか?
Q5-5日本では、女性が働いていても子育てがしやすい環境してほしいという要望が政府に多く寄せられています。皆さまの国ではどうですか? たとえば男性が家で家事をし、女性が外で働くというアメリカでおこっているような現象は、皆さまの国で今後起こりうると思いますか?
A5-5これはジェンダーに関係なく、家計の維持はイスラムの定めている男性の義務です。しかし新しい世代では女性が外で働いて男性が家事をすると言うのはありえないことではないです。(オマーン)

Q5-6一旦仕事に就いた女性が、結婚や子育てで仕事を中断、あるいはやめざるを得ないことがありますか? また、結婚や子育てなどで仕事を中断した女性が再就職することは可能ですか?日本では一般に高学歴女性の子育て後の再就職は困難で、就職先があったとしても制度的・給与的に不安定です。
Q5-7男性の仕事とされている家事にはどんなものがありますか。またそれについてどう思いますか。 日本では、基本的には家事・育児は女性の仕事とされていますが、男性も分担するべきという考え方も支持されるようになってきています。アラブ・イスラム世界では、家事・育児の仕事はどのように位置づけられ、認識されていますか?
A5-7男性の仕事とされているのは、まず家に対する責任です。男性は家を確保し、家族に家を提供する義務があります。混雑するスークでの買い物も男性の義務です。金曜のスークは混雑がひどくて、女性が行くところではないのです。車の運転なども義務のひとつです。家の中の家事はメイドさんがやるので、女性の義務でも男性の義務でもありません。(オマーン)

Q5-8日本では、ほとんどの女性は結婚後、男性の姓を名乗ります。姓が変わることで不便が生じる場合があるため、夫婦別姓が議論されてきています。皆さまの国では名字はどうなっているのですか?
Q5-9子供を産むとき、男の子と女の子、どちらが好まれますか? また、それはなぜですか?

6. 男女の平等性

Q6-1日本では女性の権利が法律で保証されていますが、法律の運用が難しいため、実際はそんなに女性を保護できないという問題があります。イエメンでは、女性の権利が法律などで保証されていますが、法律によって、女性の権利は十分守られていて、女性の権利を主張できると感じますか。
Q6-2ヴェールをしている女性の中にも様々な考え方があると講義で知りました。流行もあるそうですが、実際に皆さまがヴェールについてどのように考えていらっしゃるかをお聞きしたいと思います。
A6-2ヴェールは差別ではありません。イスラムの考えでは、女性にはフィトナがあるとされています。フィトナは女性の魅力で、これを隠すことによって女性に対するレイプなどの犯罪を防ぎ、女性の尊厳や、両親や兄弟の尊厳を守ることができます。ヴェール着用はこのようなトラブルから女性を守るために神が定めたムスリマの義務です。ヴェールのおかげでイスラム諸国ではレイプなどの犯罪が欧米に比べて少ないのです。(カタール)

Q6-3欧米など先進国が男女平等を唱えています。男性中心と考えられているイスラム世界の女性たちには、そのような状況を変えるために男女平等を唱えようという気持ちはありますか。もしあるとしたら、およそ全体の何割ぐらいがそうでしょうか。
Q6-4ムスリム・ムスリマのフェミニストを、普通のムスリム・ムスリマはどう思っていますか。また、西洋のフェミニストとイスラムのフェミニストとの考え方の相違点はどこにありますか?
A6-4フェミニズムは西洋起源のもので、そのまま取り入れるのは危険があります。西洋のフェミニズムは女性の地位を向上させるための運動であり、私たちも女性の地位の向上を願っています。しかしながら、フェミニズムは個々の文化の文化的・伝統的側面を考慮していません。例えばイスラームで厳格に禁止されているゲイやレズビアンをフェミニズムは容認し、彼らの権利を擁護せよと主張しています。しかしこれらの考え方を私たちは受け入れるわけにはいきません。女性の地位の向上は私たちの目標ではありますが、文化的・伝統的なものに考慮しないフェミニズムについては、私たちはNOと言わざるをえません。(オマーン)

Q6-5アラビア語で、ジェンダー(文化的・社会的な性)という言葉、またはそれに相当するような言葉はありますか?また、ジェンダーという概念を持っていますか?
注:アラビア語で〔jinsiya〕。SEX・人種を表す単語jinsを抽象名詞化し、ジェンダーの意味で用いている。
Q6-6日本にも様々な形で女性差別がありますが、生まれたときからその差別の中で育って、当然のこととして受け入れているところがあります。皆さまは、イスラム法の定める結婚制度、男性側の婚資金と、男性の扶養義務と女性の服従義務について女性差別だと感じたことはありますか?
A6-6まず、マフル(結納金)には前払いマフルと後払いマフルがあります。前払いマフルは結婚の時に支払われます。後払いマフルは離婚時か、夫が死亡した時に支払われます。後払いマフルは遺産の他に、妻がもらえるものです。(遺産はマフル分を差し引いてから分割されるのが普通)このようにマフルは女性の結婚後の生活を保障する役割を果たしており、マフルをもらうのは女性の権利です。結婚には権利が伴います。家を用意するのは男性の義務ですし、家を維持するのも男性の務めです。後払いマフルは保証金の役割をも果たしています。いらいらするような規定もありますが、結婚に関する全ての義務に従う必要はありません。夫の権利に関する義務のみに従えばいいのです。確かに私たちは、何かする時に夫の許可を得る必要があります。しかしそれは何かをするにあたっては男女、お互いの同意が必要だからです。予め許可を得ることで無用な誤解や摩擦を避けることができます。服従義務は、実際は話し合って物事を進めていくことに通じているのです。皆さんはこの男女の平等性に関して、規定にこだわって悲観的であるように見えます。実際はもっとずっと、男女間は対等なのです。(バハレーン) 

Q6-7日本や西洋から見ると、イスラム教があるために女性の社会進出が遅れているように感じられるが、本当にそうなのですか。もし、イスラム教のせいで女性の将来が狭められているとしたら、それをなくしたいと思いますか。
Q6-8アラブ・イスラム世界にもセクシャル・ハラスメントがありますか? あるとしたら、それはどのようなものですか?日本では、公共の交通機関にも、女性のきわどい水着姿のポスターが貼られています。それを見てどう感じますか?
Q6-9もし生まれ変わることができたとしたら、女性と男性どちらに生まれ変わりたいですか? その理由も教えてください。

7. セクシュアリティ

Q7-1エジプトやスーダンなどでは行われている女子割礼についてお聞きします。これについてどのように考えていますか?
Q7-2イスラム世界では、女性は結婚するまで処女であることが望まれる一方で、モロッコなどでは男性の婚前交渉は誇りであるともききます。日本でも、かつては処女性virginityが重要視されていましたが、近年は若い人のあいだでの意識は変わってきていますが、皆様の国では、男女や年代によって、考え方に違いがありますか?

8. 異文化認識

Q8-1留学を経験されたオマーンの方にお聞きします。自国と全く違う異文化・西洋から自分の文化を眺めてみてどのように感じましたか。自分の文化に対して、さらに好意を持つようになった、初めて好意を持った、怒りを覚えた、何も意識に変化がなかったなど具体的に教えてください。また意識に変化があった場合にはそのきっかけも教えてください。
Q8-2アラブ・イスラム世界の人たちはどのようなメディアから地域の情報や世界情勢の情報を得ているのかが聞きたいです。新聞やテレビ、雑誌などにはどのような特徴がありますか。
Q8-3イスラム世界の女性から見て、日本の女性はどのように映りますか?若い女性の服装、髪型、化粧などについては、どのように感じられますか?

Copyright(c)2004 Comparative History, Ochanomizu University. All Rights Reserved.