多文化共生とライフスタイル 調査結果の概要報告

2020年1~2月に実施した調査の結果概要を報告します。

杉野 勇 http://www.li.ocha.ac.jp/ug/hss/socio/sugino/index.html (お茶の水女子大学)http://www.ocha.ac.jp/index.html
2020-07-08

Table of Contents


☆調査へのご協力,有難うございました

 2020年1~2月に,東京・千葉・埼玉・神奈川そして愛知の1都4県で,18歳から69歳の男性と女性の有権者の方を対象に,「多文化共生とライフスタイルに関するアンケート」を実施させていただきました。御協力いただきました皆様には心より感謝申し上げます。残念ながら御協力いただけなかった皆様にも,お騒がせしましたことをお詫び申し上げます。
 6月にはここで結果速報をさせていただくとのお約束でしたが,Covid-19の感染流行による非常事態の為に種々の業務や計画が再編成を余儀なくされ,予定よりも遅くなってしまいました。お詫び申し上げます。現時点での基本的な概要をここに掲載し,今後更に学会報告などの形で成果発表を行っていきたいと考えています。
 なお,同時期に行ったウェブモニター調査の結果報告はこちらです。合わせて御覧下さい。

◆調査実施についての基本情報

回答していただいた方々

 性別と年齢別に回答していただいた状況をグラフと割合の表にしました1

Table 1: 性・年齢別の回答状況(行%)
1郵送回答 2 Web回答 3 非回収
20代男性 9.0 16.9 74.1
20代女性 21.4 22.6 56.0
30代男性 18.8 18.8 62.3
30代女性 22.3 21.8 55.9
40代男性 18.4 19.9 61.7
40代女性 25.7 15.2 59.1
50代男性 19.1 13.2 67.7
50代女性 29.3 16.0 54.8
60代男性 27.9 16.2 55.9
60代女性 39.1 8.1 52.8

 今回は,国勢調査のインターネット回答割合が高く,多くの外国人が居住している自治体を擁する愛知県も対象に含めましたので,性別・都県別にも回答状況を見てみましょう2
 必ずしも,愛知県でウェブ回答が多いという結果にはなりませんでしたが,特に女性で郵送回答が多かったために県全体の回答率も高くなりました。半数以上の方が回答してくれたのは愛知県女性のみでした。

Table 2: 性・都県別の回答状況(行%)
1郵送回答 2 Web回答 3 非回収
東京男性 17.3 20.4 62.2
東京女性 25.2 19.2 55.5
千葉男性 19.0 20.3 60.8
千葉女性 23.6 11.8 64.6
埼玉男性 19.0 15.3 65.6
埼玉女性 31.6 15.2 53.2
神奈川男性 17.5 13.6 68.9
神奈川女性 23.2 14.4 62.4
愛知男性 22.8 14.4 62.9
愛知女性 37.9 18.3 43.8

ウェブ回答の方の使用機器

 これは,郵送ではなくウェブで回答された方336名について,回答に用いた機器を集計した結果ですが,どの年齢層でも女性の方がスマホ回答割合が高く,中でも(タブレットをスマホと合わせると)50歳以上でその差が顕著です。また若い人ほどパソコンではなくスマホを用いる傾向が見られますが,50歳以上の男性でもパソコンよりはスマホを利用している人の方が多い事は注目に値します。

Table 3: 性・年齢別のウェブ回答機器
1 PC 2 Tab 3 SmartP
20代男 4 0 24
20代女 3 1 32
30代男 6 1 32
30代女 5 0 36
40代男 15 2 36
40代女 6 1 28
50代男 13 0 16
50代女 4 1 25
60代男 12 0 17
60代女 3 2 11

◆東京オリンピックについて

 この調査はまだ日本では新型コロナウィルス流行の脅威が自分の事とはほとんど感じられてない時に実施されました。東京オリンピックの延期が決定されたのは2020年の3月24日です。結果的に,パンデミック直前における人々のオリンピックに対する態度を調べる事となりました。

問3 楽しみにしているか

まずは楽しみにしているか否かを性・年齢別に集計しました3。グラフの水平の青い点線は,25%, 50%, 75%のラインを示します。

問3 あなたは,東京オリンピック・パラリンピックを楽しみにしていますか。(1つだけ)
1 たいへん楽しみにしている
2 ある程度楽しみにしている
3 それほど楽しみにしていない
4 まったく楽しみにしていない

 性や年齢によって顕著に異なるということはなさそうです。この時点ではおおよそ4分の3程度の人々が楽しみにしていたと思われます。

問4 復興と多文化共生

(1)東日本大震災からの復興を世界に示す上で大きな意味がある
1 たいへんそう思う
2 そう思う
3 どちらともいえない
4 そう思わない
5 まったくそう思わない
9 わからない

(2)日本社会の多文化共生が促進される

 二つのグラフを見比べると,60代を除いては,震災復興を示す意味があるとする人よりも多文化共生が促進されると思う人の方がやや多いようです。

◆多文化共生に関する態度

 この調査は多文化共生に向けての人々の態度を調べる事を目的の一つとしていましたが,それも調査時点と現在では,パンデミックによって大きな変化を生じているものと思われます。

問5(2), (5) 定住外国人への態度

 ここでは,「日本に定住しようと思って日本に来る外国人」に対する対照的な二つの意見への賛否を見てみます。

(2)日本に住む外国人は日本のやり方に従うべきだ
1 たいへんそう思う
2 そう思う
3 どちらともいえない
4 そう思わない
5 まったくそう思わない
9 わからない

(5)日本に来る外国人によって日本文化は豊かになっている

 いずれも,年齢に関して緩やかに傾向差を示しています。ただし,態度の違いの大きさはかなり弱いといえます4。また,一見寛容に見える回答の理由が何であるかはここでは分かりません。

問6 ハラルフードの普及

 多文化共生に関わる事柄の中でも比較的最近のトピックとして,ハラルフードについての態度を尋ねてみました。結果を見ると,年齢や性別と単純な関係があるとは言えないようです。

問6 あなたは,日本国内でのハラール・フード(イスラム法で食べることが許されている食材や料理)を手軽に利用できるように,普及をもっと進めるべきだと思いますか。(1つだけ)
1 ハラール(ハラル)という言葉やその意味をこれまで知らなかった
2 すみやかに普及させるべきだと思う
3 もっと普及してもよいと思う
4 現在の普及の程度でじゅうぶんだと思う
5 これ以上普及の推進をする必要はないと思う
6 普及には慎重になるべきだと思う
7 その他

◆メディア利用について

 私たちの調査では継続して,人々のメディア利用についても調べて来ています。これは,今後の効果的な調査方法論の検討とも関係しています。

問8 SNSと新聞

問8 あなたは次にあげることをどの程度していますか。(1)~(3)のそれぞれについて,あてはまるものを1つ選んでお答えください。(それぞれ1つだけ)

(2)LINE以外のSNS(フェイスブック,ツイッターなど)やブログへの書き込み
1 1日に1回以上
2 2~3日に1回程度
3 4~5日に1回程度
4 1週間に1回程度
5 2~3週間に1回程度
6 1ヶ月に1回程度かそれ以下
7 見るだけで書き込むことはしない
8 見たことがない

 SNS利用については当然年齢との関係が見られますが,20代以下と30代以上ではかなり大きく異なるように見えます5

(3)(紙に印刷された)新聞を読むこと
1 全く読まない
2 週に1日くらい
3 週に2~3日くらい
4 週に4~5日くらい
5 毎日または,ほぼ毎日

 新聞を読む習慣についても当然年齢差が見られますが,しかし,50歳以上ですらほぼ毎日紙の新聞を読む習慣がある人が半分に満たない点は注目に値します。

尚,2014~15年度の私たちの調査結果における類似質問の回答結果は以下の通りです6

SNS(LINEも含む)利用
新聞購読習慣

問17 情報の入手経路

問17 あなたが社会についてのニュースや情報をえるのは,「TVや新聞」からが多いですか,それとも「インターネット上のブログやまとめサイト,SNS」からが多いですか。(1つだけ)
1 ほとんどTVや新聞から
2 TVや新聞からが多い
3 どちらかといえばTVや新聞からが多い
4 どちらともいえない
5 どちらかといえばインターネット上のブログやまとめサイト,SNS からが多い
6 インターネット上のブログやまとめサイト,SNSからが多い
7 ほとんどインターネット上のブログやまとめサイト,SNSから

 よく見ると,40代以上では,男性よりも女性の方がTVや新聞などの従来からのマス・メディアを利用する傾向がありますが,40歳未満では僅かですがその男女差が逆になっています。

◆政治関連の行動や態度

問12 投票参加

問12 あなたは国政選挙や自治体選挙の際に,どの程度投票していますか。もっとも近いものを1つお選びください。(1つだけ)
1 毎回必ず投票に行く
2 行かないときもあるが,投票に行くときの方が多い
3 行くときと行かないときが同じくらいある
4 行くときもあるが,投票に行かないときの方が多い
5 投票には行かない・行ったことがない

 18-29歳で「行かない・行ったことがない」が多めなのは恐らくまだ投票に行く機会が(あまり)ない事が影響していると思われるので,予想ほど年齢差は無いと言えるでしょう。

問14(1) 韓国への外交姿勢

問14 あなたは,多文化共生に関わる,安倍政権の以下の政策についてどのようにお考えでしょうか。(それぞれ1つだけ)
(1)韓国への外交姿勢
1 日本から譲歩してでも関係改善を急ぐべきである
2 韓国が譲歩をするなら日本も譲歩をして関係改善をするべきである
3 韓国が譲歩しても関係改善を急ぐ必要はない
4 韓国との関係改善は必要ない
9 わからない

 予想したよりも年齢差,男女差が小さいと言えるでしょう。40代以上では,「わからない」の回答割合に男女差が見られます。

問16 保守―革新の自己認識

問16 政治的な考え方を,保守的から革新的までの11段階にわけるとしたら,あなたはどれにあてはまりますか。0がもっとも革新的,10がもっとも保守的として,0から10の数字でお答えください。(1つだけ)

 ここでは,性・年齢でグループ分けしてこの回答の平均値を計算し(「保守度スコア」のようになる),それをグラフで表現してみました。選択肢は本来は0から10ですが,違いが見やすいように縦軸は4-6の範囲を切り出して描画しているので注意して下さい。

 0から10なので5がちょうど中間になりますが,20代男性以外はやや保守よりとなります。傾向と云う点では20代女性がやや独特だとも言えます。

問18 政治的意見

問18 あなたは次のような意見についてそう思いますか,それともそうは思いませんか。あてはまるものをお答えください。(それぞれ1つだけ)
(1)いくつかの主要な国内メディアは,日本の現状に批判的過ぎる
1 そう思う
2 どちらかといえばそう思う
3 どちらともいえない
4 どちらかといえばそう思わない
5 そう思わない
9 わからない

 どの年齢層でも男女差が見られます。20代男性でそう思う割合が高いと同時に,20代では男女ともそう思わない人たちも多くなっています。

(2)大人どうしが同意して行うことは,多数の人の道徳と違っていても,法律で禁止すべきではない

意外にと言うべきか,相対的に多くの人が「(どちらかと言えば)そう思わない」と回答しています。質問の意味が充分に伝わらなかった可能性もありますが,同意があれば自由に委ねられるべきと云う態度は必ずしも多数派ではないのかも知れません。
(1)も男性の方が同意する傾向が少し見られましたが,この(2)についても男性の方が同意する傾向が僅かに見られます。

(3)社会的弱者とされる人々は,平等の名の下に過剰な要求をしている
 これは,女性の方が社会的弱者とされる事が多い為か,男性の方が同意する傾向がやや強いです。但しそれ程強い関係ではありません7

問21 格差容認や権威主義

問21 あなたは次の意見について,どう思いますか。(1)~(6)のそれぞれについて,あなたのお考えに 最も近いものを1つ選んでお答えください。(それぞれ1つだけ)
(1) チャンスが平等に与えられるなら,競争で貧富の差がついても仕方がない
1 そう思う
2 どちらかといえばそう思う
3 どちらともいえない
4 どちらかといえばそう思わない
5 そう思わない

 どの年齢層でも男女差が見られ,かつ若い人の方がそう思う割合がやや多いように思われます。

(3)伝統や慣習にしたがったやり方に疑問をもつ人は,結局は問題をひきおこすことになる

 この意見に賛成する人はあまり多くないという結果でした。

(4)国民の意見や希望は,国の政治にほとんど反映されていない

この意見には過半数の人が同意していました。

◆生活状況の主観的評価

問19 生活満足度

問19 あなたは生活全般に満足していますか,それとも不満ですか。(1つだけ)
1 満足している
2 どちらかといえば満足している
3 どちらともいえない
4 どちらかといえば不満である
5 不満である

 若年層の満足度が高いとしばしば言われますが,ここからはあまり明確には伺えません。それよりも,それぞれの年齢層の中で女性の方がわずかに満足度が高い傾向が見られます。

問20(2) 階層帰属意識

問20(2) かりに現在の日本の社会全体を,このリストに書いてあるように1から10までの10の層に分けるとすれば,あなた自身はどれに入ると思いますか。(1つだけ)
(1が上,10が下)

 社会学ではこの回答を「10段階階層帰属意識」と呼んでいます。これも結果を見やすくするために,性・年齢別に平均値を求め,縦軸を4~7の範囲に限定して図示してみます。
 あまり大きな違いでは有りませんが,若者,特に20代でやや高いという印象を受けます。

◆統計や調査についての態度

問21(5)(6) アンケート調査と公的統計

 問21 あなたは次の意見について,どう思いますか。(1)~(6)のそれぞれについて,あなたのお考えに 最も近いものを1つ選んでお答えください。(それぞれ1つだけ)
(5)社会についての正確な情報を得るために,大学などの研究機関がおこなうアンケート調査は有効な手段である
1 そう思う
2 ややそう思う
3 どちらともいえない
4 あまりそう思わない
5 そう思わない

 これはそもそも調査に回答してくれた方であるからだとも言えますが,おおむね肯定的な意見でしたが,特に20代の回答者で高いのが意外でした。

 参考までに以下に2014年度調査での結果を引用しておきます。

(6)現在の日本の公的統計は政策形成や制度設計の根拠としてどの程度信頼できると思いますか。

 2019年はじめ頃には公的統計についての多くの不正や不適切処理が問題となりました。公的統計に対する人々の信頼がどの程度揺らいでいるのかが一つの関心事でしたが,年齢差や性差は殆どなく,ほぼ半数の人々が信頼しているという結果でした。

問33 調査協力の理由

問33 なぜ今回の調査に協力していただけましたか。協力した理由にもっとも近いものを1つ選んでください。 (1つだけ)
1 調査の内容に興味があったから
2 大学の研究者がやっている調査だったから
3 謝礼があったから
4 自分の意見を伝えられるから
5 とくに理由はなくなんとなく
6 その他

 理由の如何を問わず,協力いただきました方々に改めて御礼申し上げます。

☆今後の調査研究予定

 未曽有の社会状況で今後の予測が立ちませんが,世界的なパンデミック,東京オリンピックの延期/中止,対中国関係,アメリカ合衆国での人種差別抗議活動,香港問題など,多文化共生の趨勢と関わる重大事件が沢山起こっています。私たちは今年度以降もこうした社会状況に関して調査研究活動を行っていきますので,御理解と御協力を心からお願い申し上げます。

付表

Table 4: 性・年齢別の回収状況(※ 18~19歳は20代に含む)
1郵送回答 2 Web回答 3 非回収
20代男性 15 28 123
20代女性 34 36 89
30代男性 39 39 129
30代女性 42 41 105
40代男性 49 53 164
40代女性 59 35 136
50代男性 42 29 149
50代女性 55 30 103
60代男性 50 29 100
60代女性 77 16 104
Table 5: 性・都県別の回収状況
1郵送回答 2 Web回答 3 非回収
東京男性 56 66 201
東京女性 80 61 176
千葉男性 29 31 93
千葉女性 30 15 82
埼玉男性 36 29 124
埼玉女性 54 26 91
神奈川男性 36 28 142
神奈川女性 45 28 121
愛知男性 38 24 105
愛知女性 58 28 67
Table 6: 問3 の性・年齢別集計表
1 2 3 4
20代男 12 20 6 5
20代女 10 30 25 5
30代男 26 27 16 9
30代女 19 38 23 3
40代男 25 45 23 9
40代女 26 43 22 3
50代男 25 22 19 5
50代女 24 47 9 3
60代男 27 32 18 2
60代女 30 43 14 5

  1. 度数分布表は末尾の「付表」の table 4 に示しました。

  2. 度数分布表は末尾の「付表」の table 5 に示しました。

  3. 集計表は末尾の付表の table 6 に示しました。

  4. 年齢階級と意見の分割表(クロス表)の関連の強さは,CramerのVで約.09に過ぎません。

  5. LINEを除いたのは,学生などから「LINEとSNSはちょっと違う」と云う意見を貰った為ですが,現在はLINEにもかなりSNS的な要素が含まれているのではないかとも思われるので今後の検討課題です。

  6. 2014, 15年度の調査結果の概要は以下で公開しています。 2014年度モード比較調査: http://www.li.ocha.ac.jp/ug/hss/socio/sugino/summary.html, 2015年度無作為ウェブ調査: http://www.li.ocha.ac.jp/ug/hss/socio/sugino/summary2015.html

  7. 性別とこれらの態度の2元分割表のCramerのVは(1)が.17,(2)が.11,(3)が.14でした。