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日本史学
古瀬 奈津子
安田 次郎
神田 由築
小風 秀雅
東洋史学
岸本 美緒
三浦 徹
西洋史学
新井 由紀夫
安成 英樹

新井 由紀夫(あらい ゆきお:ヨーロッパ中世史)

講義概要

 2年生以降向けの授業では、15世紀イギリスの手紙史料の話をしました。一通の手紙から何がわかり、また何がわからないのかを考えたり、手紙の書式からいえる ことを検討しました。当時、羊皮紙や紙は大変高価で貴重だったために、手紙は細かな字でびっしりと書かれ、あまった部分は切り取って再利用するなど、ちび ちびと使われていたのですが、手紙の文面はといえば、時候の挨拶のような文章が多いときには手紙の半分を占めるものもありました。もったいないなあ、なん でながながと挨拶文を書くのだろう、はぶいてしまえばいいのにという疑問を持ったことがそもそもの始まりです。そのうちに、貴重な紙を使ってわざわざ長い 挨拶文を書かなければいけないような理由が当時あったのではないか、それを探ってみようと考えるようになりました。
 また、贖宥状(個人宛の手紙の形式を持つ免罪符です)について話をしました。ルターによる批判で悪名高い免罪符ですが、単なる一回の売買では片づけられ ない関係が、中世にはありました。その多くは、祈祷兄弟盟約といって、与えた人(その多くは宗教団体です)ともらった人がお友達関係になって、もらった人を与えた人の宗教団体がいわば名誉会員として受け入れることが明記されていたのです。さらに免罪符をもらった側の立場にたって考えてみると、宗教だけでは割り切れない理由も見えてきます。贖宥状をもらった人と与えた人が、そ の時どのような社会的関係にあったのかを明らかにすることで、いろいろと見えてくるのではないかと考えています。
 贖宥状をひとりで10通もため込んだ女性がいます。キャサリン・ラングレィというロンドン豪商出身でジェントリに嫁ぎ未亡人になった女性です。ここ数年、この女性とラングレィ家に関する史料を集めて、ぼちぼち読み始めています。最初に、彼女の遺言書を3・4年生と一緒に読みました。またラングレィ家の家政会計記録を読んでいます。マニュスクリプトを前にして一緒ににらめっこしつつ読んでいくと、肉食が禁じられた四旬節にはカキやムール貝やヒラメでタンパク質を取り、四旬節が終わって、ただ同然になった貝類や値崩れした棒ダラ等を買いあさり安いときに買いだめするなど、生活のありさまが手に取るように浮かんできて興味深いものです。家政会計記録は一応読み終わったので、授業の中ではキャサリンとロンドンとの関係を今後は探っていきたいと思っています。
 またイギリスで制作された最近の歴史関係DVDが非常に詳しくてまた興味深いので、それらを解説しつつ授業で見ています。



ゼミ概要

 

こ こ数年は、英語で書かれた最近の雑誌英語論文を、一年に7~8本、担当者による発表形式で読んでいます。各自が分担して、要約・コメントし、それをうけて 皆で議論するというやり方です。テーマがあちこちに飛びますが、研究の新しい波にふれる充実感が味わえます。最近の論文のテーマは、


(2008年度)
古典期アテネとデルフィの神託:民主主義と予言の関係;18世紀イギリスにおけるフリーメーソンと自然哲学と科学文化;中世写本装飾画や活字本挿絵に描かれたリチャード3世像の虚実;近世日本を描く:徳川時代の旅行記にみる空間認識の変遷;江戸期の幕藩体制と男色文化への対応;魔法の杖とビーグル号のダーウィン:航海での宗教的体験が進化論思想に与えた影響;パスカ・ロゼのコーヒー・ハウス、1652~1666年(ロンドン大火以前);イスラム社会をささえたワクフの多様性;フランス王ルイ11世とルネサンス期フィレンツェの聖遺物(奇蹟をよぶ魔法の指輪);ユーイング夫人の少女小説『6歳から16歳』を読む:大英帝国における「健康な」少女の身体性

(2009年度)
皆んな家族:19世紀中葉の大英帝国とフリーメイソン;通勤者の目:20世紀初頭の東京における、女学生とサラリーマンと通勤電車;イメージを形作るもの:『源氏物語』に描かれた「中国」;世紀末の女流舞踏家・イリュージョニスト、ロイ・フラー;音楽の目利き・演奏者・作曲家としてのヘンリ8世;ノリッジ大聖堂がノーフォークのゴシック教会建築に与えた影響;奇跡がもたらした権威:ハイステルバッハのカエサリウスとリヴォニアへの布教活動;聖戦のための伝統のねつ造:宮崎の八紘一宇の塔と、戦時イデオロギー;16世紀における英仏貴族層の比較;テューダー朝における悪女イメージの創造:アリス・モア、アン・ブーリン、アン・スタンホープ;彼の喜びは私の人生と共に始まり、そして終わった:ピアス・ギャベストンと英王エドワード2世;フランス王権の儀礼にみる、あるべき統治者の理想像;エリザヴェータ・ペトロヴナ(ロシア皇帝)治世における、死刑廃止問題;博物館見学のマナー:初期の博物館における、さわる・嗅ぐ感覚の重視;家は城?戸口・部屋仕切り・プライヴァシーにみる、18世紀ロンドンの家事情;明清期における国家とホモセクシュアリティー;エリザベス朝における宗教化する政治と政治化する宗教:その多様性

(2010年度)
ポーランドにおける消費者運動と「連帯」とコミュニズム;トロイア戦争の叙述に見るおそろしい織物;カタストロフィーの「記録」? 浅井了意『むさしあぶみ』と明暦大火;オランダ西インド会社とブラジル貿易;悔い改めた死者の魂か、それとも歩く死体か?中世イギリスの亡霊;アリス・ド・ブライアンの家政会計簿、1412-13年;18世紀フランスにおける最後の魔女裁判とマスコミュニケーション;世紀末転換期の満州におけるチェコ人同胞;中世前期のグラナダにおける「同性愛」について;中世イギリスにおける大天使ミカエルの叙述;スワドゥル(子供を布でぐるぐる巻きにすること)か、屍衣か? 中世イギリスの墓に見る子供の表象;柳川春三『横浜繁昌記』を読む

(2011年度)
近世ヴェネツィアのうわさにみる、地域共同体のミリュー;死者のための家-1843~1889年ロンドンにおける遺体安置所の供給と住民の対応;自由主義革命の失敗:1848年ウィーン革命;死の文化:中世ヨーロッパと日本における戦士の自害;中世における入浴と食事療法の関係;ブリストルのブリスリントン・ハウスにみるピクチャレスク:19世紀初期の精神病院における治療法に風景が担った役割;イングランドへのスコットランド移民の盛衰:マージーサイド、リヴァプールにおけるスコットランド移民社交団体;小笠原諸島父島における観光と保護:持続可能な観光の可能性;ヘンリ8世の宮廷における女性のファッション

(2012年度)
日本人は米だけを食べて生きてきたのか -日本における「肉食」思想の変遷と、他国(他者)イメージ形成との関係を読み解く;19世紀ロンドンとパリにおけるガス燈(都市ガス)導入の是非をめぐる技術的議論と世論、環境保護規制;騎士の華ウィリアム・マーシャルと傭兵隊長の違いに見る騎士階層理念の形成期;異性装の冒険 女性兵士ハンナ・スネル(1723-1792) -18世紀イギリスにおける男装し軍隊に入った女性たちをめぐる言説;司教の体に宿った大天使ミカエルの力 -モン・サン・ミシェル修道院におけるアヴランシュのオーベールをめぐる奇跡崇敬の形成;タージマハルは何のために作られたのか -妃の霊廟かそれとも皇帝の地上の楽園か;ヨーロッパにおける中世から近世への時間感覚の変化 -アウグスティヌスの時間観;メッテルニヒとビスマルク-19世紀における平和構築にまつわる神話を読み解く;マタ・ハリ -第一次世界大戦期に2重スパイとされた女性の真実;18世紀パリにおける公共圏としての様々なタイプの酒場について;江戸時代に屏風掛け軸など絵画を所有することはどのような意味を持ったのか;中世後期ノルウェーの都市ベルゲンにおけるハンザ在外商業拠点コントール -ハンザのメンバーであることの意味

(2013年度)
ルイ18世の宮廷における女官のパトロネージ;近世イングランド文化におけるヴィーナス神話;1886-1914年におけるポズナンのユダヤ人:ドイツとポーランドの狭間で;中世イングランドにおける成人年齢と家族;髪にまつわるおかしなことごと:近世イングランドにおけるハゲとマスキュリニティの関係;レコンキスタ期における2カ国語(羅・亜語)で書かれたアラゴン・ムスリム間の休戦協定;アラブの春と、サウジアラビア情勢;映画『グッバイ・レーニン』にみる、旧東独への「ノスタルジア」;アングロ・ノルマン期における罪・悔悛・煉獄:幻視と幽霊譚;戊戌変法前後の梁啓超と馬兄弟:生き残りのための「実学」を求めて;イエメンの歴史と歴史叙述にみる宗教的指導者(イマーム)と部族;犬は苦悩を感じるか:ヴィクトリア朝におけるペット・ロス;神をもおそれぬ行為:近世イングランドの獣姦;ポーランド映画で描かれてきたショパン像;近世スペインの女流作家劇『復讐する女たちの友情同盟』を読む;17世紀の千年王国思想の文脈で読むヤン・ヨンストンの博物誌;西洋的近代国家は単純を志向する?明清時代における「找価回贖」問題とオスマン帝国による土地制度改革の比較;植民地期シンガポール、ラッフルズ図書館の蔵書における小説(フィクション)の重要性;ミルトンの『失楽園』におけるアダムとイブ:クイア理論とラカンで読む;1950年代西ドイツにおける再軍備化と映画;シャーロック・ホームズからジェイムズ・ボンドまで:イギリス大衆小説のヒーローに読むマスキュリニティとナショナル・アイデンティティ

(2014年度)
宝飾に彩られた王権:エリザベス一世と宝石と国政;勝利のゲルマーニア像:ドイツ第二帝政期における自由主義運動とニーダーヴァルト記念碑;「尚武の民martial races」を徴募する:イギリス領インドにおける植民地軍とアイデンティティ;日本における姓とジェンダー:女性の自立を求めて;宗教戦争の分断された記憶?:アンシャン・レジーム期におけるユグノー・カレンダーと、カトリックの礼拝行列;カイロ・ゲニザ文書にみられる契約的パートナーシップ:商取引に関するイスラム法と実際との関係

卒論のテーマ(近年分)

上記の英語論文テーマと関連するものが多いですが、それ以外では、中世に関しては、死者とモンスター、亡霊、オオカミと伝承、ミンストレル(吟遊詩人)、ロンドンと女性絹職人(シルクウーマン)、エール醸造業にみる女性労働とそのイメージ、病院や施療院の役割、巡礼、聖人伝説、フラタニティ(信心会)、隠者とそのイメージ、ベルナルディーノ・ダ・シエナの連続説教にみる都市と平和、中世社会と癩病、中世アンダルスにおけるホモセクシュアル詩、英王エドワード二世のセクシュアリティ、13世紀ウェールズの国家と教会、ルーン碑文石碑から社会と家族を読む、アリス・ド・ブライアンの家政会計記録を読む、アーサー王伝説における叔父甥関係、ボズワースのバラッドは何故書かれたのか、仏王太子の外交交渉技術、8世紀後半のアングロ=サクソン期イングランドにみられる大陸との交渉 - マーシア王オッファとシャルルマーニュ、中世ヨーロッパにおけるミルク – 料理書や会計記録にみるその消費と利用、『聖ブレンダヌス航海記』と『聖ブランダン航海譚』を読む - 書き手と読者に着目して、中世ヨークにおける時間意識、12世紀の傭兵は言われているほど悪だったのか? - ウィリアム・マーシャル伝に登場する傭兵隊長、中世ロンドンにおけるハンザ商館とその規約、中世バレンシア都市におけるイスラム共同体など、近世以降に関しては、イングランド国教会の共通祈祷書にみる幼児洗礼問題、最後の殉教者エドマンド・キャンピオン、アン・ブーリンとテューダー朝の悪女イメージ、テューダー朝宮廷の女性メアリー・シドニー、継承問題におけるメアリー1世の支持基盤、エリザベス女王の巡幸、ルパート王子とイギリス内乱、クロムウェル書簡にみる「恩寵」の意味、チャールズ一世の処刑と報道、ミルトンと天使の表象、ミルトン『失楽園』におけるアダムとイブの関係と近世の結婚観・ジェンダー観の形成、聾唖者と近世社会、近世ネーデルラント都市と商人層、近世ヴェネツィアの貴族、近世イングランドにおける異性装 – 女兵士ハンナ・スネル、近世イギリスの禿頭をめぐるイメージの変化とその要因、近世イギリスにおける獣姦、18世紀のニセ医者、18世紀ロンドンの犯罪者ジョナサン・ワイルド、18世紀イギリス風景式庭園と庭師ランスロット・ブラウン、ビーグル号に乗り込むまでのダーウィンを書簡から読む、シャーロット・ブロンテの小説に見る帝国イメージ、大英帝国におけるフリーメーソンの担った役割とその変化、ヴィクトリア女王にみる家族イメージ、オクタヴィア・ヒル(ナショナルトラスト創始者の一人)の思想、性からみる大英帝国、レズビアン作家ラドクリフ・ホール、少年非行と帝国、死者は2度悼まれる - ヴィクトリア朝における死と儀礼、ヴィクトリア朝における妖精文化、セーラム魔女狩り事件におけるアビゲイル・ホッブズの尋問記録を読む、1848年ウィーン革命における都市空間とアソシエーション、英領シンガポールにおける植民地図書館とその蔵書、「儀礼的殺人事件」をめぐる反ユダヤ的うわさから読むコーニッツ社会、ポーゼンの学校ストライキ事件にみるポーランド・ナショナリズム、1938年グラスゴー帝国博覧会とスコットランド・アイデンティティ、プロパガンダ化されたクリスマス? - 1940-41年ナチ体制下におけるドイツのクリスマス、チェコスロヴァキアのロマ、ドイツ民主共和国の雑誌にみる消費文化、古代ギリシアにおける織物のイメージ、開国後の朝鮮における建築・空間の変容 – 1882~1910年の漢城、近世イングランドにおける異性装 – 女兵士ハンナ・スネル、第一次世界大戦期の銃後の帰属意識 – バイエルン地方の一農村を例に、「世紀の二重スパイ」キム・フィルビー – 戦間期イギリスと共産主義、など。


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最終更新日: 2015/6/26

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