お茶の水女子大学で地理学を学ぶ

地理学は、地球の表面(地表)に生起する自然現象・人文現象を解明する総合科学です。地表における自然環境、様々な人間活動、そしてそれぞれに固有の性格を持つ地域がどのように成り立ってきたのかについて研究しています。また、地理学は、人文学、社会科学、地球科学の様々な学問分野、さらには実学的な工学や政策科学の分野との協働を通じて様々な研究の方法を学ぶとともに、地理学の研究方法も、それらの分野に対して影響を与えてきました。地理学は、人間と自然のあいだ、文系と理系のあいだ、地理学と他分野のあいだ、さらには学問と社会のあいだを架橋する地表の総合科学として、幅広い視野と多岐にわたる研究対象をもっていることが大きな特徴です。
 
従来地理学は男性の研究者や学生が多い分野でしたが、地理学的研究の指針にもなる、「持続可能な社会」「多様性と包摂性のある社会」「豊かな文化に囲まれた社会」といった私たちが目指すべき社会の実現や課題解決には、多様な「知」が求められ、その中で女性の果たす役割は大きいといえます。地理学を学べる大学は日本全国にわたり多数存在しますが、女子大学において地理学を体系的に学べる大学は多くありません。お茶の水女子大学は数少ないそれに該当する大学であり、女子大学の環境と雰囲気の中で、現代社会における地表や地域の課題の解決および将来像の実現に貢献できる力を身につけることができます。
 
お茶の水女子大学における地理学教育は、東京女子(高等)師範学校の時代にまでさかのぼる長い歴史があります。新制大学としてのお茶の水女子大学発足にともない文教育学部(当初は文学部)に地理学科が設置され、1996年の改組により人文科学科地理学コースになり、現在まで地理学の教育を行っています。2024年4月には共創工学部が新設され、文化情報工学科に地理情報学の研究室が設置されました。これにともない、お茶の水女子大学では、地理学を学ぶことができる学科が複数になりました。

 

人文科学科で学ぶ? 文化情報工学科で学ぶ?

お茶の水女子大学では、複数プログラム選択履修制度と呼ばれる学習プログラムに基づいて学部生の専門教育が行われています。これは、専門教育を第1のプログラム(「主プログラム」)と第2のプログラムに分け、後者については、第1のプログラムで選んだ分野のアドバンストの科目からなる「強化プログラム」、主プログラムとは別の分野のエッセンスを学ぶことができる「副プログラム」、複合的な分野の科目から構成される「学際プログラム」より選択することができます。
 
文教育学部人文科学科において地理学を学ぶには、第1のプログラムについて、地理学、環境学およびフィールドワークの科目から構成される地理環境学主プログラム(44単位)を選択します。第2のプログラム(いずれも20単位)は、地理学の科目と隣接他分野の科目からなる地理環境学強化プログラム、そのほかに他分野の副プログラム、学際プログラムから選択できます。
 
共創工学部文化情報工学科において地理学を学ぶ場合は、第1のプログラムは文化情報工学主プログラム(54単位)を必修としていますので、第2のプログラムに人文科学科の地理環境学副プログラム(20単位)を選択します。文化情報工学主プログラムは、人文学とデータサイエンスと工学(情報工学やデザイン思考)の科目からなり、人文学の選択科目に地理学の科目が、人文学とデータサイエンスが協働するデジタル・ヒューマニティズ(人文情報学)の選択必修科目にGISに関する地理情報学の科目が含まれています。これらの科目と地理環境学副プログラムの地理学の科目を合わせて履修します。
 
では、2つの学科のあいだで地理学の学びには、どのような違いがあるのでしょうか? 人文科学科では、複数のフィールドワーク科目や地域分析の科目を受講できます。現地調査や社会調査に基づいた地表や地域の実態把握と諸現象の理解が重視される傾向にあります。一方、文化情報工学科では、データサイエンスや情報工学、デザイン思考といった工学的な技術や考えをベースに、地理情報の分析に基づく地表や地域の課題把握から、その解決を目的とした地域デザイン(ジオデザイン)への展開をより強く志向することに特徴があります。授与される学位も異なります。人文科学科を修了すると人文科学の学士号が、文化情報工学科では文化情報工学の学士号が授与されます。
 
お茶の水女子大学において地理学を学びたい受験生の方は、地理学を学ぶ目的や学んだ知識やスキルの活かし方、関心があったり得意としている研究手法の違い、取得したい学位の種類などを考えて、受験する学科を選んでください。
 
取得できる資格について補足します。学芸員資格、地域調査士資格、GIS学術士資格、社会調査士資格、全学データサイエンス学際カリキュラム履修証明については、両方の学科において取得可能です。ただし、GIS学術士資格と全学データサイエンス学際カリキュラム履修証明は、文化情報工学科のほうが取得しやすいカリキュラムになっています。中学・高校の教員免許に関しては、文化情報工学科では取得できません。特に社会科・地理歴史科の教員免許の取得を考えている場合には、人文科学科の受験を考えてください。

 

地理学とデータサイエンス

文化情報工学科で学ぶことができる地理学の特徴についてもう少し説明します。
 
地理学は、計量分析手法の導入が早くから進んだ分野です。1950年代にアメリカで始まり、その後、イギリスやスウェーデン、その他の国で展開された「計量革命」によって、地理学の研究に、統計解析・多変量解析、地図変換、グラフ理論、オペレーションズ・リサーチ、シミュレーションなどの手法が導入されました。さらに、現在までに、位置や空間的非定常性などの空間に関する要素を明示的に組み込むことができる手法の開発も進められました。
 
1960年代には、地理学もその生みの親であるGIS(地理情報システム)の萌芽がみられました。その後、GISは普及し、地理学の研究においてコンピュータを用いた地理情報の可視化や分析処理が容易になりました。現在のGISは、地理学にとどまらず学際的な研究のプラットフォームになっており、一般社会においても様々な用途(身近なものに、たとえばwebの地図閲覧アプリやカーナビゲーション・システムがあります)で活用が進んでいます。
 
また、インターネットの普及にともない、そのうえに蓄積されるようになったデータには、緯度経度などの位置情報を持ったものが少なくありません。スマートフォンの普及は、そのようなデータの生成を促しているといえます。また、オープンデータとして提供される地理情報も増えています。
 
現在の地理学の研究は、GIS、データサイエンス、地理的ビッグデータに少なからず支えられています。文化情報工学科では、データサイエンスの基礎をしっかりと学び、そのうえにGISや地理的ビッグデータを用いて地表や地域の課題にアプローチする能力を養うことができます。

 

宮澤研究室に所属するには

宮澤研究室では、文化情報工学科と人文科学科の両方において、地理学のテーマで卒業研究に取り組む学生を受け入れます。
 
文化情報工学科では、3年生のときに履修するデジタル・ヒューマニティズの選択必修科目において地理情報学の科目を選択して履修することを研究室受入れの条件としています。また、必須ではありませんが、第2のプログラムに人文科学科の地理環境学副プログラムを選択することが望ましいといえます。3年生の終わりに、希望を出すことで宮澤研究室に配属となります。(文化情報工学科志望者向け研究室ポスターはこちらから)
人文科学科では、1年生の終わりまでに第1のプログラムとして地理環境学主プログラムを選択し、地理学の専門科目の履修を進め、3年生の夏ごろに宮澤研究室への配属の希望を出すことで研究室に仮配属となり、3年生の終わりまでに正式な配属となります。
 
宮澤研究室では、将来的に文化情報工学科と人文科学科の双方の学生が合同で卒業研究のためのゼミに参加することを考えています。地理学を専攻し地域の実態把握を重視する学生と、工学的な考え方やデータサイエンスを駆使して地域のデザインに関心をもつ学生が「共」に学ぶことにより「創」発的効果が得られることを期待しています。
 
なお、大学院については、博士前期課程はジェンダー社会科学専攻に、博士後期課程はジェンダー学際研究専攻に所属しています。ジェンダーの名を冠した専攻ですが、必ずしもジェンダーの研究を行わなければならないわけではなく、大学院レベルの地理学の研究に取り組むことができます。
 

どのような研究ができるのか

宮澤研究室では、地理学の中でも、主に地理情報学、地域分析、都市地理学、福祉地理学に関するテーマの研究に取り組むことができます。以下に、これまでの当研究室所属学生による研究成果の一部を紹介します。学術雑誌に公表された論文等を閲覧できます。いまのところ人文科学科地理学コースの学生によるものですが、文化情報工学科において取り組むことが可能なテーマの研究もみられます。なお、教員の研究については、上の研究室ポスターや「業績」のページをご覧ください。
 
  • 東京都世田谷区におけるコミュニティサイクルの利用特性 (論文閲覧)
  • 日立市中里学区における住民主導型交通の導入と課題 (論文閲覧)
  • 大学における白杖利用視覚障害者へのナビゲーション情報提供ツールの作成と課題について-お茶の水女子大学「ことばのキャンパス・アクセスマップ」作製の経験から- (成果物 お茶の水女子大学キャンパスマップ ことばの地図)
  • 送迎保育の現状と効果に関する一考察-埼玉県東南部の実施自治体を事例に- (論文閲覧)
  • 幼稚園を送迎先とした送迎保育の効果と課題-東京大都市圏の自治体における実践から- (印刷中)
  • 経済連携協定(EPA)に基づく外国人看護師候補者の受入れにみられる大都市集中傾向-東京大都市圏における動向とその背景- (論文閲覧)
  • 学校を拠点としたセーフコミュニティ活動-神奈川県厚木市立清水小学校通学区における事例- (論文閲覧)
  • 大都市都心地域における児童の放課後生活とその規定要因-東京都中央区湾岸地区を事例に- (論文閲覧)
  • 東京における高級住宅地の形成と変容-田園調布、成城、常盤台を事例に- (論文閲覧)
  • 大都市の製造業における異業種連携の取組みに関する研究-東京都墨田区の「ものづくりコラボレーション事業」を事例に- (論文閲覧)
  • 東京都大田区におけるものづくり拠点を介した協業体制 (論文閲覧)
  • 地理的側面から見る市民マラソン大会-全国データ分析および7大会のランナー調査をもとに- (論文閲覧)
  • 千葉県における上水道事業体間格差の要因と広域化に向けた取組み (論文閲覧)
  • 首都直下地震発生時の帰宅抑制の促進に関する研究-従業員の情報ニーズと企業の帰宅困難者対策に注目して- (論文閲覧)