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2020年7月20日更新
舞踊教育には、学校教育の中のダンス、地域社会におけるダンス、そして振付家や踊り手の育成を想定した芸術舞踊の教育という広がりがあります。それぞれの文脈における舞踊教育の意義やねらい、訓練法や指導法、それら方法論の根底にある思想等々を明らかにし、舞踊教育が抱える様々な問題を解決し、またその遺産を継承してゆくことが舞踊教育学という学問領域です。
私自身のこの領域での研究としては、現代の芸術舞踊家らの試みに関心をもち、彼らがダンスをどのように考え活動を展開しているかに着目してきました。方法としては、ワークショップへの参与観察や、舞踊家や指導者へのインタビューといった実地調査や、彼らが発表している文献や資料テキストの質的分析を行うことで、実際の舞踊上の試みを言葉に還元し理論を構築する作業です。このようにして舞台芸術の発展のみならず、学校や地域における舞踊の教育に適用できる方法の原理を明らかにすることを行ってきています。
身体性哲学は、身体教育学という広い分野に位置づけられる研究領域です。とりわけ日本では明治期以降の西洋の身体観が流入し教育法に反映してきている一方で、日本固有の伝統的な身体観も残り一筋縄にはいかない状況がありますが、またその状況がこの研究領域を興味深いものとしているとも思います。
私自身は、振付家らの美意識を形成する大きな要因に技術訓練法(メソッド)があると注目し、そのメソッドの根本にある身体観と舞踊家の美意識の関係に関心をもっています。ここ数年は、現代の芸術舞踊が大きく取り入れてきた日本や米国のボディワークに関心を持ち、そうしたボディワークの考案者の身体に対するまなざしや思想を問う研究を行ってきています。
この科目は、入学後に初めて履修する舞踊の講義です。民族舞踊学、舞踊芸術学、臨床舞踊論等の講義の導入科目に相当するものです。西洋の舞踊史を概観するとともに、日本を含む様々な国、地域、民族の舞踊を紹介します。舞踊作品、舞踊活動を構成する成分を知り、舞踊という現象を語り記録するための方法を学びます。
「舞踊芸術学」は、2年後期に履修される必修科目で、芸術としての舞踊とは何かについて学ぶ講義です。主に19世紀後半から現在までの欧米と日本の舞踊芸術家らの思想と作品を中心に、地域別に通史的に学びます。具体的には、バレエ、モダンダンス、舞踏、ヌーヴェルダンスなどを取り上げます。作品や舞踊家の思想を映像記録や文献を通して知ることで、舞踊芸術を鑑賞し解釈する視点や専門的な用語や概念を理解し、様々な舞踊の美意識に触れることで学生自らが豊かな舞踊観を持ち語ることができるようになることを目的とします。同実験演習は3年前期に選択する授業です。授業前半は、舞踊芸術家の作品記録や著述を分析考察する方法について例題を通して学ぶとともに、創作プロセスや技術の指導法を記録し分析する方法を学びます。授業後半では、各自が舞踊家や鍵となる概念を定めて調査分析を行い、最後にプレゼンテーションを行うという演習となります。
この科目は広い意味でのモダンダンス(コンテンポラリーを含む)のテクニックを学ぶ実技です。具体的には、グラハム・テクニック、リモン・テクニック、リリースワーク、コンタクト・インプロヴィゼーション等のメソッドから抽出した基本的な身体の動かし方と表現法を学びます。コントラクション&リリース、スウィング、オフバランス、ローリング、身体の各部位を先行させるリーチ等の技術の習得が中心となります。自分の身体(心を含む)についての理解を深め、表現手法の選択肢を増やし、表現力を磨くことをねらいとします。
2年生後期の必修科目です。現代の舞踊作品には様々な構成法があり、音楽や小道具との関係も様々です。作品の空間、時間、視覚的要素、聴覚的要素の関係性がどのような意味を醸成するかを、即興的な試みと構成課題を通して学んでゆきます。後半は翌3年生4月に開催される定期公演にむけて群舞作品の創作を行います。
3年生後期の選択科目です。翌4年生4月に開催される定期公演の制作を学ぶとともに、舞踊上演の様々な可能性を実験的に取り組みます。制作の内容としては一つの公演をどのような企画として成立させたいかという点から出発し、必要な作業項目を立て、役割分担を行い、予算を管理し作品プログラムの構成から広報活動に至るまでを専門家や関係者の協力を仰ぎながら履修者全員が実地で学んでゆきます。その中で、自らの舞踊作品の創作も行ってゆきます。本コース舞踊実技の集大成となる授業です。
1~3年で選択履修できる科目です。モダンダンスの基礎的・基本的技術を生かしながら、応用的表現技術を習得します。上級学年が中心となって群舞作品の創作を行い、最終的には全国高校・大学ダンスフェスティバルのコンクール部門に創作作品を出品し舞台上演を行います。
この科目は博士前期課程の舞踊・表現行動学コース学生を主対象として開講しています。現代の芸術舞踊の振付家の関心(身体、動き、場、媒体、コミュニケーション、主題等)が、どのように展開しているかを作品の記録映像や文献資料を用いながら整理し、舞踊による表現の可能性や特性についての理解を深めます。
「M. カニングハム(1919-2009)の観客観に関する研究」
「マーサ・グレアム(1894-1991)研究―彫刻家イサム・ノグチとの活動を中心に―」
「インクルーシブダンスにおける舞踊家の取り組みと今後の展望」
「舞踊家が学校現場で活動を行う際の教師との連携についての研究」
「女性の目に映った19世紀パリオペラ座におけるバレエ-モード誌の舞台評を中心に-」
「振付家鈴木ユキオ(1972-)研究-振付過程にみるダンサーとの関係性を中心に-」
「ソーシャリー・エンゲイジド・アートに期待されるダンス・アーティストの役割」
「現代におけるサイト・スペシフィック・ダンスと舞踊家の関心-アート・プロジェクトの事例から-」
学習作業は基本的に各個人で行いますが、週1回のゼミでは所属の院生、学部4年と3年が集り、各自が進捗状況を報告し質疑応答等を通して次の手順を確認することを行います。そうすることで、始めは漠然とした問題意識や関心だったものから、研究上のキーワードが発見され、そのキーワードを中心に先行研究や関連文献の収集へと勢いがつきます。研究の進め方は各人により様々かもしれませんが、基本的には文献資料研究が中心となる領域なので、複写資料の整理や引用文・転載情報の情報元の管理には最初から注意するようにします。
舞踊の中では一つの問いに対して、答えが一つとは限りません。それでも、そのうちの一つを見付けることができればとても価値あることです。ひるまずに臆せずに進みましょう。