感染症リスク下での多文化共生 一般有権者調査報告

2021年1月に実施した1都4県有権者調査の結果概要を報告します

杉野 勇 http://www.li.ocha.ac.jp/ug/hss/socio/sugino/index.html (お茶の水女子大学)http://www.ocha.ac.jp/index.html
2021-06-28

Table of Contents


☆調査にご協力有難うございました

 2021年1~2月に,東京・千葉・埼玉・神奈川・愛知の1都4県で,18歳から70歳(2020年10月31日時点)の有権者を対象に,「感染症リスク下での多文化共生に関するアンケート」を実施しました。基本的な結果概要をここに御報告いたします。

◆調査実施についての基本情報

回答してくださった方々

性×年齢ごとに,ウェブ回答/郵送回答/無回答の人数と割合を表とモザイクプロットで示しました.

Table 1: 性×年齢別の回答状況
Web回答 % 郵送回答 % 無回答 %
男性20代 48 28.9 7 4.2 111 66.9
男性30代 56 33.9 10 6.1 99 60.0
男性40代 109 37.8 22 7.6 157 54.5
男性50代 87 34.8 26 10.4 137 54.8
男性60代 75 39.3 39 20.4 77 40.3
女性20代 73 42.2 19 11.0 81 46.8
女性30代 81 49.7 11 6.7 71 43.6
女性40代 79 38.7 12 5.9 113 55.4
女性50代 81 42.9 16 8.5 92 48.7
女性60代 72 34.6 44 21.2 92 44.2

都県での違いを見てみると,神奈川・東京でわずかにウェブ回答が多い様にも見えます.

協力してくれた理由

「なぜ今回の調査に協力していただけましたか。」に一つだけ選んで貰いました.

「大学の研究者の行う調査だから」と「謝礼があったから」で年齢差がある様に見えます.「自分の意見を伝えられるから」は少数ですが60歳以上で多い様です.

オリンピック・パラリンピックへの期待

楽しみにしていますか,を4件法で尋ねました.楽しみにしている人が少ない訳では必ずしも有りません。

次には,オリンピック・パラリンピック開催についての考え方を5件法で尋ねました.
(「わからない」「無回答」は数が少ないので除外しました.)
調査の時期は1月上旬からの1ヶ月で,正に調査を開始した1月8日から3月21日は首都圏で2回目の緊急事態宣言が発令されていた期間でした.

当然かもしれませんが,第2回緊急事態宣言発令直後のこの調査結果では,開催に否定的な意見が大勢を占めている様です.
また,新型コロナに打ち勝った事を示す意味がある,については,男女とも高年齢層で少し同意が増えています.

多文化共生に関する態度

 日本に定住しようと思って日本に来る外国人について5つの質問をしました.
ただし外国人といっても様々な人がいて,それによって日本人の態度も異なることがしばしばですので,ウェブ調査票では「外国人」「中国人」アメリカ人」「韓国人」をランダムに提示しました.郵送調査票では全て「外国人」としました.以下のグラフはそうした問題文や回答モードの違い毎に回答分布を示しました.

 中国人に対する回答だけやや否定的にも見えます。

ここでも,中国人に対する態度は他よりもやや厳しいものに見えます。

大きな差とは言えませんが,「中国人」と言われた場合に特に印象が悪化する傾向がここまでは一貫して見られます。

この質問に関しては,「外国人」と聞かれた場合は「中国人」「アメリカ人」「韓国人」のいずれとも一致しません。いわゆる外国人労働者として,南米や東南アジアからの来日者がイメージされているものと思われます。
 言い換えれば,同じように「外国人」と言われた質問でも,その質問の内容で,思い浮かべる具体的な外国人が大きく違う場合があり,同じ「外国人」に対する設問と考えて良いのかどうかと云う問題が浮上してきます。

この質問では最初の3つの質問とは異なり,「外国人」にもっと近いのは「アメリカ人」でした。日本文化の豊饒化には,欧米人が寄与していると云うイメージの存在を含意しているのかも知れません。

そのほか,LGBTQの人達の権利保障についての質問もありました.
30歳未満とそれ以上で違いが見られました.また,男女の違いもかなり顕著です。

デジタルメディアへの慣れ親しみ


問7(1) LINE以外のSNS(フェイスブック、ツイッターなど)やブログへの書き込み 
1 1 日に 10 回以上 
2 1 日に 1~9 回 
3 2~3 日に 1 回程度 
4 4~5 日に 1 回程度 
5 1 週間に 1 回程度 
6 2~3 週間に 1 回程度 
7 1 ヶ月に 1 回程度かそれ以下 
8 見るだけで書き込むことはしない 
9 見たことがない 

女性の場合には特に,年齢との関連が非常に明瞭です。


問8 あなたはウェブアンケート・インターネットアンケートのモニターに登録していますか。
1 6 つ以上のアンケートモニターに登録している 
2 3 つから 5 つのアンケートモニターに登録している 
3 2 つのアンケートモニターに登録している 
4 1 つのアンケートモニターに登録している 
5 アンケートモニターには登録していない 
9 わからない・おぼえていない 

18-29歳では必ずしも多い訳ではないのが予想外でした。60歳未満では男女差も見られます。
いずれにしても,「登録していない」人が圧倒的に多く,ウェブアンケートに登録する人は一般的にはかなり少数派です。

問8で一つでも登録している人に,
問9 どのくらいの頻度でウェブアンケートに回答していますか。


1 毎週 5 回以上回答している 
2 毎週 1 回は回答している 
3 月に 2 回くらい回答している 
4 2 ヶ月に 1 回は回答している 
5 半年に 1 回くらい回答している 
6 ほとんど回答していない/これまで回答したことがない 
9 わからない・おぼえていない 

問 10 ウェブアンケートのモニターに登録している理由はなんですか。 (複数回答)

Table 2: ウェブモニター登録の動機(複数回答)
○を付けた人数 有効回答総数 ○を付けた人の割合(%)
生活費や小遣いの足しとして重要 18 107 16.8
ポイントや謝礼が魅力的 69 107 64.5
アンケート回答に興味 15 107 14.0
自分の意見が伝えられる 9 107 8.4
必要に迫られて 3 107 2.8
ひまつぶし 24 107 22.4
その他 4 107 3.7

登録者はかなり少数派でしたが,その動機として約三分の二の人がポイントや謝礼目的を挙げ,アンケート回答に興味があるとか自分の意見を伝えられるからとした人は僅かでした。暇潰しを挙げる人は2割強です。

2020年9月以降の国勢調査にどうやって回答したかも尋ねました.

Table 3: 国勢調査への回答者と回答手段
1 パソコン 2 タブレット 3 スマホ 4 紙 NA
1 自分で回答 168 25 173 192 12
2 他の家族が回答 0 0 0 0 295
3 家族以外が回答 0 0 0 0 8
4 誰も回答していない 0 0 0 0 86
NA 0 0 0 0 8

問7(2)では紙の新聞を読む頻度,問20ではニュースや情報の入手源について質問しました.

問7(2)紙に印刷された)新聞を読むこと

実に綺麗に年齢による差が見られますが,40代ですら全く読まない人が半数以上にのぼり,ほぼ毎日読むのが5割を超えるのは最早60代のみとなっています。

問 20 あなたが社会についてのニュースや情報をえるのは、「TVや新聞」からが多いですか、 それとも「インターネット上のブログやまとめサイト、SNS」からが多いですか。


1 ほとんどTVや新聞から 
2 TVや新聞からが多い 
3 どちらかといえばTVや新聞からが多い 
4 どちらともいえない 
5 どちらかといえばインターネット上のブログやまとめサイト、SNSからが多い 
6 インターネット上のブログやまとめサイト、SNSからが多い 
7 ほとんどインターネット上のブログやまとめサイト、SNSから 

これは,先の「紙の新聞を読む頻度」とほぼ対応する様な結果です。

これらは,予想以上に綺麗に年齢の差が表れました.

政治的姿勢

9月のオンラインパネル追跡調査では57.8%の支持率でした.

Table 4: 菅内閣支持率
支持する 支持しない
男性20代 52.7 47.3
男性30代 43.1 56.9
男性40代 45.7 54.3
男性50代 37.5 62.5
男性60代 35.2 64.8
女性20代 44.4 55.6
女性30代 37.8 62.2
女性40代 35.6 64.4
女性50代 40.6 59.4
女性60代 42.5 57.5

問16


韓国への外交姿勢
1 日本から譲歩してでも関係改善を急ぐべきである 
2 韓国が譲歩をするなら日本も譲歩をして関係改善をするべきである 
3 韓国が譲歩しても関係改善を急ぐ必要はない 
4 韓国との関係改善は必要ない 
9 わからない

対韓国感情が史上最悪だと言われていますが,関係改善をすべきだと云う意見が過半数を占めています。女性の方がその度合いが強いと言えます。

問17(1)香港の民主化運動
(2)アメリカ合衆国の黒人差別抗議活動(Black Lives Matter)

どちらにも,殆どの人が共感を示しています。

革新的(0)―保守的(10)と,リベラル(0)―保守(10)の2通りで自分の政治的位置を11段階で尋ねました.

保守の対極に革新ではなくリベラルを置くと,男性の20代と女性の60代でその回答が増える様にも見えます。

 現在の日本や世界では,差別されているという人達の運動が起こる一方で,そうした被差別運動への隠然たる反感も生じている様に思われます.
そこでそうした態度の広がりを調べてみようと思いました.
以下の結果を見ると,男性でややこの意見が強く,しかも若年である程その傾向が強い様に思われます。

新型コロナに関連して

公衆衛生と個人の権利はいざと言う時に衝突する様に見える事があります.
問21(2)では,そうしたディレンマを,文言を変えて尋ねてみました.
「ウィルスの拡散防止に役立つならば、自分の権利をある程度犠牲にしてもかまわない 」と
「ウィルスの拡散防止に役立つならば、市民の自由をある程度制約してもかまわない 」


1 そう思う 
2 どちらかといえばそう思う 
3 どちらともいえない 
4 どちらかといえばそう思わない 
5 そう思わない 
9 わからない 

結果はかなり明白で,「自分の権利を犠牲にしても」よりも「市民の自由を制約しても」の方が全体的に賛意が増えます。実際の政策として実現する場合にはいずれも似た様なものになる事も考えられますが,フレイミングによって或程度世論が変わると云う事を含意しています。

感染封じ込めと景気拡大のディレンマについても,1月の時点の世論を確認しました.
問 22 今後3カ月程度の日本社会についてのあなたの考えは、次のA、Bの 2つの意見のどちらに近いでしょうか。


 A: 多少景気が後退しても行動制限を強めて感染を封じ込めるべきだ 
 B: 多少感染が拡大しても行動制限を緩めて景気回復をはかるべきだ 

1 強く A に同意する 
2 A に同意する 
3 どちらかといえば A に同意する 
4 どちらかといえば B に同意する 
5 B に同意する 
6 強く B に同意する 

多少の年齢差も見られますが,大多数が行動制限による感染封じ込めを支持しています。これはやはり,第2回の緊急事態宣言下での人々の危機感を反映していると思われます。

新型コロナのディレンマとして,世代間対立の様なものが語られる事も少なくありません.

問 23 新型コロナウィルス感染症に関して、「高齢者を長生きさせるために、子どもや若者に負担やがまんを強いるのは望ましくない」という意見がありますが、あなたはこれに同意しますか、同意しませんか。


1 強く同意する 
2 同意する 
3 どちらかといえば同意する 
4 どちらかといえば同意しない 
5 同意しない 
6 まったく同意しない 
9 わからない 

これについては,若年層ほど「子どもや若者に負担や我慢を強いるのは望ましくない」に同意する傾向がやや強まります。

社会制度への信頼

Q27(4) 社会についての正確な情報を得るために、大学などの研究機関がおこなうアンケート調査は有効な手段である

調査に回答してくれた人達であるからとも言えますが,否定的な人はかなり少数でした。年齢や性別による違いは見られませんでした。

Q27(5) 現在の日本の公的統計は政策形成や制度設計の根拠としてどの程度信頼できると思いますか

公的統計への信頼度も予想より高く,性差や年齢差は見られません。

Q27(6) 現在の日本のマスメディアによる世論調査はどの程度信頼できると思いますか

マスメディアの世論調査への信頼度はやや低く,しかも年齢による相違の傾向がやや明らかです。
60代は唯一,毎日新聞を読む人が多数派でしたが,その層でのみマスメディアの世論調査への信頼が過半数に達します。

生活への満足度などの意識

Q24 あなたは生活全般に満足していますか、それとも不満ですか。

特に傾向の様なものは見られません。

Q26 かりに現在の日本の社会全体を、このリストに書いてあるように 5 つの層に分けるとすれば、あなた自身はこのどれに入ると思いますか。

家族

Q25 緊急事態宣言発令前の昨年3月頃と現在の生活をくらべると、家族との会話が増えた(オンライン含む)

Q28 男の子と女の子は違った育て方をすべきである

男児と女児で育て方を変えるべきだと云う意見は,男性の方で少し強い事が分りました。年齢による相違は余り明確ではありません。

学歴観や権威主義

Q27(1) 学歴は本人の実力をかなり反映している

男性においては,やや年齢との関連があるかも知れません。全体としては割と意見は二分している様です。

Q27(2) 権威のある人々にはつねに敬意をはらわなければならない

どちらかと云えば若年層の方がやや肯定的なのが意外です。

Q27(3) 伝統や慣習にしたがったやり方に疑問をもつ人は、結局は問題をひきおこすことになる

協力いただきました皆様に改めて御礼申し上げます。

先行する調査の結果報告

2020年1月の調査結果については以下で公開しています。
ウェブパネル第1波結果報告
一般有権者調査の結果報告

2020年9月の調査結果については以下で公開しています。
ウェブパネル追跡結果報告