私が大学の教育で力を入れているのは、次の3点です。①地理的想像力を養うこと。②他者への共感的理解を構築すること。③フィールドワークを通じて「場所」を体験し、そこに関わること。この3つは相互に結びついています。
地理的想像力とは、空間的に離れた事象や人々に思いを馳せることです。その時に重要なのは「他者化」に陥らないことです。「他者化」とは、他者を自らとは異質な(しばしば劣った)存在としてまなざし、それを固定化することです。
理解は共感を伴う必要があります。「理解のない共感」は思い込みで、相手に迷惑です。しかし「共感のない理解」は相手との距離を固定化し、しばしば支配のための手段になります。「共感的理解」とは、他者との差異をきちんと見据えながら、それを越えてつながろうとすることだと考えます。
このような理解を構築するため有効なのが、「フィールドワーク」です。「フィールドワーク」は、研究対象が存在する場所に身を置き、一次資料を集める調査方法です。それは身体性を通じた具体的な場所の体験にほかなりません。
<学部>
- グローバル文化学総論:グローバル文化学環専任教員の共同担当の授業。私は、南の世界とどうつながるか/日本の移民問題/多文化共生の空間・場所づくりの課題、などについて、問題提起しています。
- フィールドワーク方法論:学問分野を越えて重視されるようになってきたフィールドワークの方法と目的について、具体的な実習課題をはさみながら、論じます。
- オセアニア社会文化論Ⅰ・Ⅱ:海続きの隣人であるオセアニアの社会・文化について学び、他者化を越えた共感的理解の構築をめざします。Ⅰ(前期)では、オセアニアの概説と歴史、言語、食文化、メラネシア以外の太平洋島嶼地域、オーストラリア、ニュージーランドを取り上げ、Ⅱ(後期)では、植民地主義、観光と表象、メラネシア(とりわけパプアニューギニア)を論じます。講義と演習を組み合わせて(それぞれ週1コマずつ)行います。
- 地域研究実習Ⅰ:グローバル文化学環専任教員の共同担当の国内実習。日帰りで、さまざまなグローバル化の現場を訪ね、観察や聞き取りを通じてその課題を考えます。
- 地域研究実習Ⅱ:グローバル文化学環専任教員の共同担当の国内実習。東日本大震災で被災した岩手県陸前高田市の仮設住宅やそこで活動している方々を訪ね、復興の現実と課題を学びます。
- 国際協力実習:グローバル文化学環専任教員の共同担当の海外実習。2013年度は、北タイの村にホームステイしながら、村の暮らしを体験し、その生活を学びます。チェンマイ大学の日本語学科との交流も行う予定です。
<大学院>
- 開発地域文化論:開発と地域の関わりについて、英語文献と日本語文献を併用して、考察し討論します。
- 社会環境学:社会/文化地理学の新しい動向を、英語文献と日本語文献を併用して、考察し討論します。
<卒研指導>
2013年度に私が卒業研究の主指導を担当している学生の皆さんのテーマは下記のとおりです。
- 斎藤 美緒:グリーン・ツーリズムの可能性―秋田県でのアクションリサーチから―
- 佐久間 志帆:日本における社会的企業の動向―インターンシップの経験を通じて―
- 高橋 詩織:ナポリにおける「場所」の体験――留学と観光の間から
- 土屋 真美:地域の持続可能性にためによそ者が果たす役割―石川県七尾市中島町釶打地区でのインターンシップの経験から―
- 富沢 友里:海外からの観光客誘致と地域の開発――新潟県、湯沢町
- 渡邊 友里:企業と地域の関係―老舗企業への聞き取りから―
<大学院研究指導>
2013年度に私が修論・博論の主指導を担当している大学院生の皆さんの研究テーマです。
(博士前期課程)
- 谷口 博香:在日外国人をめぐる課題と「場所」の生成
- 舩渡 恵:日本の農村におけるジェンダーと開発
- 佐藤 香寿実:フランス、アルザス地方、ストラスブールのイスラーム空間
- 小川 杏子:アンカラの都市再開発とゲジェコンドゥ住民――都市空間・場所をめぐる交渉と表象
- 道添 姫:鹿児島、甑島のアートプロジェクトと内発的発展
(博士後期課程)
- 及川 裕子:現代アートをめぐる空間編成
- 新垣みのり:社会関係資本から見た沖縄の内発的発展とその課題
- 山田 真美:カウラ事件に見る日本兵捕虜のホモソーシャルな絆とジェンダー観
- 久島 桃代:会津・昭和村のからむし織体験織姫プロジェクトと女性――非表象理論から
- 李 小妹:中国、深?のテーマパークにみる少数民族の表象と実践
- 中村 雪子:インド、ラジャスターン州における女性酪農協同組合