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神田 由築(かんだ ゆつき:日本近世史)

2023年6月15日更新

神田ゼミのみなさん

研究テーマ

皆さんは「こんぴらさん」で有名な香川県琴平町で、毎年4月ごろに開催される、「こんぴら歌舞伎」というのをご存知ですか?これは、天保6(1835)年に建てられた芝居小屋をそのまま用いて行われる歌舞伎のことで、昔ながらの雰囲気で芝居が楽しめる、と人気を博しています。私は卒業論文で、この小屋が創建された当時の、門前町と芝居小屋のことについて調べました。以来、フィールドを広げて、西日本各地の芸能興行などについて研究しています。瀬戸内海地域では、いくつもの芸能者集団が、各地を転々と巡業していました。私も彼らの跡を追いかけるように、あちらこちらの古文書をひもといてみました。そうすると、芸能者集団だけでなく、商人や侠客など、同じように各地を移動する存在が見えてきました。芸能の問題を通じて、近世に生きるさまざまな人びとの姿が、具体的に浮かび上がってくるのです。

また、近年は近世都市大坂と芸能の関係にも関心をもっています。大坂では歌舞伎も盛んに行われていましたが、その他に、義太夫節という音曲も流行していました。今日の「文楽」にあたります。竹本義太夫という人が始めた義太夫節は、その独特な曲風に加えて、大坂で実際に起こった出来事などを作品に取り入れたこともあって、人びとに大いに受け入れられました。プロの芸能者だけでなく、商家の旦那などが義太夫節を習うという、稽古文化としても広がりをみせます。

西日本各地で行われた芸能興行と、こうした大坂の都市文化とは、無関係ではありません。新しい芝居が生まれると、それはすぐに西日本のみならず全国に伝えられ、また多くの芸能者が大坂から各地に出かけていきました。その他、さまざまな情報や物・人の流れを通して、大坂は西日本地域と深く結びついていました。都市の文化と地域社会の関係―それが現在の私の研究関心です

学生への一言

21世紀になり大規模な自然災害や感染症の流行、そして戦争の危機など、私たちの暮らしを取り巻く環境は大きく変化しつつあります。学生の皆さんもいろいろな不安や、あるいは意志を抱えていることでしょう。
しかし、どのような意見をもつにしろ、大事なことは、
①ものごとを原理で考えること、②俯瞰すること、③想像力をもつこと。
大学で学ぶ意味も、歴史を学ぶ意味も、そこにあります。
「歴史」は決して過去のものではありません。いま現在(あるいは過去)、なにが、なぜ、どのように起こっている(起こった)のか。その仕組みの「原理」を考えるとともに、それに対して人々がなにを考えている(考えていた)のか、自分にとって心地良いことも良くないことも、いろいろな状況を「俯瞰」することが大事です。
それを熟考するための時間と方法が与えられるのが、大学生活です。そして、現代の社会や自分の「現在地」を時間的・空間的に俯瞰するのが、歴史学です。私たちが存在する、この時間、この地域も、現在進行形の「歴史」の一部です。
その上で、自分はどう考えどうふるまうべきか、どのように社会を設計するのか、「想像」してみてください。皆さんのやわらかい想像力によって、より豊かな未来が拓かれることを願っています。

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