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卒業生の声

2024年7月11日更新

日本文学を伝える 高張 優子

  高校生の頃は、何となく古典の授業が好きで、古典文学についてもっと知りたいと思っていました。

 大学に入ってからも興味があるのは相変わらず古典文学でしたが、お茶大の日文コースは、古代から現代までの文学の授業と、日本語学の授業が必修になっています。必修のほかにも面白い授業がたくさんあり、高校生の頃には想像できなかったほど多様な「日本語による表現」に触れることができました。大学時代はとても視野の広がった時間だったと思います。

 さて、大学には、単位を取ることによって取得できる資格があり、お茶大の日文では、教員免許のほかに博物館の「学芸員」の資格も取得できます。私は博物館が好きだという単純な理由で、学芸員資格取得のための授業を受けました。

 そして現在は、山口県防府市にある、山頭火ふるさと館で学芸員として働いています。防府市は古代には周防国府があったところで、自由律俳句の代表として知られる種田山頭火の出身地でもあります。私の仕事は、山頭火の資料を集め、調査し、広く普及させることです。

 山頭火については、コアなファンが全国にいる一方、地元では、山頭火の人生や作品に対して嫌悪感や違和感を示される方もいます。さまざまな見方があるという事実も見据えつつ日本文学のひとつとして山頭火の作品を捉え、専門家やコアなファンだけでなく一般の人々にも普及させていく必要があります。1300年前の和歌が今でも残っているように、100年前の山頭火の作品もこれから先の人々に継承していかなければならないと思うからです。

 今、日本文学に関わる仕事ができているのは本当に恵まれたことですが、地方の小さな博物館では、研究以外の業務も山ほどあります。興味の赴くまま常に日本文学に触れることができていた大学時代は、今以上に恵まれていたと感じます。

 その恵まれた時間の中で学んだことを忘れずに、これからも日本文学を現在、そして後世の人々に伝えていきたいと思います。

勤務先:山頭火ふるさと館

2019年 比較社会文化学専攻 日本語日本文学コース修了

過去に励まされながら現在を生きる 山野邉美里

中高生の頃、私は和歌に特別心惹かれていました。競技かるた部に所属していたので、「百人一首」に慣れ親しんでいたことも要因の一つではありますが、必要最低限の言葉で最大限の感情を伝えている「和歌」の存在自体を面白く感じたのだと思います。

大学に入ってからもやはり興味は変わらず、和歌を勉強したいと強く思い続けていました。しかし、知っている和歌がほぼ「百人一首」だけだった私にとって、大学での勉強は海のように広くて深いものでした。万葉集から江戸時代まで、あらゆる時代の和歌のあり方を学ぶ授業もあれば、一つの和歌に対する学者たちの解釈を調べ、精査する授業もありました。今思えば夢のような時間ですが、当時は膨大な数の和歌と注釈書を目の当たりにして途方に暮れていました。

それでも大学時代にたくさんの古典作品に触れることができたのは、今の私に取って大きな財産となったと感じています。

さて、そんな私が就職した先は出版社です。
出版社と聞くと、作家さんと一緒に作品を作る編集者になったのだと思われますよね。
私も編集者になって作品作りに携わりたいと思っていたのですが、実際に配属された先は営業部門でした。やはり希望した部署でなかったことに、多少落ち込む時期がありました。
そんな時に思い出したのが、大学時代に触れた古典作品です。

日文コースには日文図書室という小さな書庫があります。そこには、慣れ親しまれている古典作品だけでなく、普通の書店では見たことのない古典作品や、注釈書が数多く存在します。大学時代、日文図書室の本を手に取るたびに「このマイナーな本は、どれだけの人に読まれたのだろう、100人くらいだろうか」なんて失礼なことを思っていたのですが、今になるとその本を手に取って読めていることが、どれだけすごいことなのかが分かります。

この世に存在するあらゆる書物は、著者の実力だけで現代に残っているのではありません。そこに至るまで、多くの人の手と労力がかかっているはずです。たくさんの人に知ってもらいたい、後世に残したいと思った人たちが、語り継ぎ、書き継いだからこそ、今ここに存在するのです。あの狭い日文図書室のたくさんの古典作品を思い出すたびに、作品を生み出すだけでなく、それを広めることがどれほど重要かを実感します。1,000年以上経ってもまだなお読まれている作品たちは、いったいどれだけの人に支えられてきたのでしょう。

私の所属している営業部門は、流通・販売促進企画・在庫管理など“売る”ことに関するほとんどの業務を担っています。“売る”ということは、すなわち多くの人に作品を広めて、手に取ってもらうということです。今まで触れてきた古典作品のように自社の作品を後世に残したいと思いながら、日々仕事に励んでいます。

正直なところ、もう今では大学時代に学んだ内容をほとんど覚えていません。専攻した分野はまだ記憶に残っているのですが、いつかは忘れてしまうのでしょう。
それでも大学で過ごした日常や感じたことはずっと心に残っています。そしてその記憶が励みになったり自信になったりすることが時折あるのです。

きっと皆さんにもそんな日が来ると思うので、好きなことを学びながら、今過ごしている日常を大切にしてください。そして大人になった時に辛いことがあったら、大学時代に思いを馳せてみてください。きっと少しだけでも気持ちが和らぐと思います。

勤務先:白泉社 販売部 山野邉美里

2020年 日本語・日本文学コース卒業

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