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02. 結婚にまつわる土地譲渡証書(17世紀)

2016年4月8日更新

インデンチュア証書の画像

02. 結婚にまつわる土地譲渡証書(17世紀)

 羊皮紙。1674年5月20日(イギリス国王チャールズ2世の治世第26年)に、イングランド北部、グロスター州のヨーマン(独立自営農民身分)であるウィリアム・ウィリーと、トマス・ヘイワードらとの間で取り決められた不動産譲渡に関するインデンチュア証書。

 この当時は、契約の両当事者が、同じ内容の証書2枚をつくり、お互いに署名と印章(印鑑のようなもの)をつけて1枚ずつ持ちあうというやり方が普通だった。その際、1枚の羊皮紙の上下に同じ内容を書き、上下の境目を波形に切り取るやり方で2枚の証書を作ると、あとで問題が起こった場合に当事者双方が持っているそれぞれの証書の切れ目を合わせたときに、ぴったり一致していれば、お互い正真正銘の証書を持っていることが確認できて便利だった。このような勘合符のような用いられ方をした証書を、インデンチュア(歯形・波切り型)証書と呼んでいる。展示している文書は、上端が波形に切り取られており、文書の折り返した下端には、ウィリアム・ウィリーの署名があるので、もともとは、トマス・ヘイワードらが所持していた証書だったと考えられる。

 内容は、トマス・ヘイワードの妹サラ(ブラウン未亡人とかかれているので、再婚であったことがわかる)と、ウィリアム・ウィリーとの結婚に際して、ウィリアム・ウィリーは、自分がもし先に死んだ場合にサラが再婚することなく暮らしていけるように、ある程度の土地財産を、あらかじめ第三者のグループに譲渡しておくことを取り決めたもの。これを寡婦産(jointure)の設定という。ややこしいが、説明するとこういうことになる。

 まず、第三者のグループ(この文書の場合は、妻となる人の兄と、たぶんその親戚)に、一定の土地財産を譲渡することを文書に明記する。

 次に、譲渡する条件として、夫婦が生きている間はそれらの土地財産から得られた収入(年収)のうちの一定額をウィリアム夫婦に与えること、もし夫ウィリアムが先に死去した場合には妻(未亡人)サラが生きている間は、サラにその額を与えること、を明記する。

 第三に、両者とも死去した場合には、両者の結婚から生まれた子供が、その額を得ること、を明記する。
 

 このようにして、いわば信託(ユース)にすることで、夫の死の直後から、妻の手に生活費がとどこおりなくわたることを目的として作られた証書である。夫の死後、相続税計算のために(死後審問という)一時的に妻が夫の財産を勝手に使うことができなくなる場合があるが、そのような事態になっても妻が困らないようにすることが第一の目的である。しかし同時に、信託をされた側は、譲渡された土地財産を有効に運用するなら、この証書で取り決められた一定年額以上の収入を得ることも十分可能だった。
 

 裏に、この契約の証人の名が書かれているが、本人による直接の署名ではなく、カギがたや、Iがたのマークで記されている点も興味深い。証人にたつ者たちは、その地域の事情に詳しい在地の人物が選ばれたこと、そのような証人には字を書けない者が多かったことがわかる。

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