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【オンライン留学―コロナ禍における緊急帰国を経て】

2020年6月19日更新

オンライン留学―コロナ禍における緊急帰国を経て
(4年 酒井麻祐子)

2020年6月掲載

私は昨年度9月からイギリス・マンチェスター大学で交換留学をしていました。予定では今年度6月までイギリスに滞在する予定でしたが、コロナウイルス感染拡大に伴い、3月末に緊急帰国しました。帰国後もオンラインで留学先の大学の授業をうけることが可能であったため、授業は受け続けていました。この報告では、コロナのため帰国せざるを得なかった交換留学生の状況を私自身の経験をもとにお伝えしたいと思います。また、急遽実施された英国の大学のオンライン授業の事情を紹介します。 

マンチェスター大学① マンチェスター大学②

伝統のある建物と近代的な建物が共存するマンチェスター大学構内

3月、徐々にイギリスでもコロナが猛威をふるいはじめました。突然のオンライン授業決定、キャンパス封鎖、外務省による危険レベル引き上げに伴う帰国決定。あらゆる出来事がほんの数日の間におこりました。300人程度の学生が住んでいた寮からはほとんど人が消え、学生街はゴーストタウン化しました。前日まで普段通り寮で夜ご飯を一緒に食べていた友人たちが、国境封鎖やフライトの関係で急遽次の日に帰っていきました。当たり前だと思っていた友人との楽しいひとときや刺激的な大学生活が突然なくなってしまう喪失感を味わいました。

私は、緊急帰国に際し、フライトの予約や荷造りなどを短期間で行なわなければならず、流されるように帰ってきました。淡々と帰る準備をしている自分と帰国することを受入切れていないもう一人の自分がいたように思います。ただ、イギリスに居続けることは危険で不安なことであるということも分かっていました。例え感染しても頼りにできる人がいない、今を逃したら日本に帰ることができなくなるかもしれない、という心配があったからです。実際、日に日にイギリス発日本着の飛行機は減便され、度重なる欠航のために、数回飛行機を予約し直していた日本人の友人もいました。

コロナが世界中に広がっているなか、海外から帰国するという自分の状況も精神的な苦痛であったように思います。マスクやゴーグル、ゴム手袋、簡易防護服などを身につけ、飛行機の自分の座席を消毒している他のイギリス出国者を目にすると、いかに自分が危険な状況におかれているのかを実感しました。感染しているかもしれない、という不安や恐れは常にありました。

帰国後は、公共交通機関を利用しないこと、14日間の自主隔離生活を送ることが政府から要請されていました(3月26日時点)。そのため、実家富山県から成田空港まで両親に迎えに来てもらい、2週間隔離生活を送りました。両親との再会によって、自分のなかにはりつめていた緊張や不安がすこし和らいだように思います。隔離生活は、お風呂とトイレ以外は部屋の外に出ず、同じ家にいながらラインで家族と連絡を取り合うような徹底ぶりでした。弟・妹は学校を休み、両親は出勤せず、万が一私が感染していても、周囲に悪影響を与えないという意識をもって生活を送っていました。2週間狭い部屋で家族とも顔を合わせることなく過ごすことは窮屈でした。しかし、留学先で出会った友人とオンライン上で思い出話に花を咲かせたり、心配して連絡してくれた友人と近況を報告をしあったりして、少しは気を紛らわせることができました。

3月末から4月中旬まで続いた留学先大学の休暇の後、オンライン授業が再開したため、日本からではありますが、授業を受け続けました。イギリスの授業はレクチャーとチュートリアルに分かれています。レクチャーでは先生による講義、そして別日に少人数で行なわれるチュートリアルでは、講義の内容について議論をします。履修していた3つの授業いずれも、講義は昨年の録画を各自見るというかたちでした。ディスカッションについては、2つの授業は非同期型、残り1つの授業は同期型で行なわれました。非同期型の場合は、授業専用ページ(いわゆるMoodleのようなものです)に掲載された質問に答えるかたちで、意見を共有しました。同期型の場合は、授業の時間にZOOMを用いて、顔を見せ合いながら、議論を行ないました。時差があるために、授業の開始が夜であったのは、イギリスの授業を日本で受けているからこそおこった現象であるため、新鮮でした。キャンパスでディスカッションが行なわれるときは、誰一人欠席することなく、議論が非常に盛り上がるのですが、オンラインになると、どういうわけか参加者が少なく、非オンライン型授業に比べると少し物足りなさを感じました。一方、日本に帰国後も、授業を通して、クラスの友人や先生と顔をあわせながら話すことができたのは嬉しかったですし、日本でも少しは留学気分を味わうことができたかなと思っています。

5月は、留学先からの期末課題やテストに追われる生活を送っていました。ある授業の期末テストは、キャンパス内で筆記型テストとして行なわれる予定でした。しかし、このコロナ禍においてキャンパス内での実施が難しくなりました。したがって、問題が出された後、7日間以内に、クエスチョンに答えるかたちでエッセイを書くという課題が代わりに実施されました。他のエッセイも同時期に提出であったため、準備を両立させるのは大変でした。ただ、クエスチョンが提示されることによって、どの文献を読むべきなのか明らかになったため、進めやすかったです。クエスチョンが出されてから24時間以内に3000字のエッセイを提出する、という課題を課された日本人の友人もいました。24時間以内に英語で3000字書くというハードな内容であるうえに、時差のために夜から開始する必要があったその友人は、24時間寝る暇がなかったと言っていました。イギリスと時差のある日本でテストを受けた交換留学生は、かなり時差に影響を受けて苦労しました。

イギリスにおけるコロナの流行がそこまで取りざたされていなかった2月の時点では、6月までの残りの数ヶ月も様々な経験を積み、達成感と満足感を得て帰国すると信じて疑っていなかった私にとって、早期帰国することは非常に悲しい決断でした。しかし、世界中で何百万人もの人々が感染し、何十万にもの人々が亡くなり、経済状況も大幅に衰退し、人々の行動も制限され、まさに未曾有の危機に直面するなかで、日本に無事帰国し、家族とともに過ごしながら、留学先及びお茶大のオンライン授業を受け勉学に励むことができている現在の自分の状況に感謝しています。先の見えない状況が続き、お茶大でもオンライン授業が継続されるようですが、留学を通して得たものを生かしながら、今自分ができることに一つ一つ精一杯取り組んでいきたいと思っています。

スタジアム

マンチェスター・シティFCの試合を観戦

夜祭

クリスマスマーケットの様子
(市内8か所でマーケットが開かれる)

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